アマゾンのゲーマー向けライブ動画プラットフォームTwitchは、COVID-19の感染拡大が始まる以前から、音楽事業やアーティストの配信に注力するために動いてきました。しかし、このコロナ禍の影響で、Twitchを活用した動画配信を行いたいと考えるアーティストの数は増える一方になっています。
Music Allyがオンラインで開催した、世界の音楽業界関係者が集まるグローバル・カンファレンス「Sandbox Summit Global」で、Twitchと音楽マーケティングをテーマにしたパネルディスカッションでは、Twitchの音楽担当副社長のトレイシー・チャン、音楽パートナーシップ・マネージャーのアリソン・トイが登壇。Twitchがアーティストや権利者にどのように収益や価値を提供できるかについて語りました。
チャンはまず、Twitchが持つ2つの重要な強みを概説しました。1つ目は、アーティストやクリエイターが「ファンと定期的に交流できる」コミュニティを構築できること。2つ目は、コミュニティが「金銭的にサポートしてくれる」ことです。Twitchには年間数百万ドルから数千万ドル単位で稼いでいるアーティストやシンガーソングライター、プロデューサーが大勢います。
このコロナ禍によって、何人か大物アーティストも参加し始めました。リンキン・パークのマイク・シノダをはじめ、Logic、T-Painなど、人気アーティストはもちろんですが、mxmtoonのような若手アーティスト、RACのようなダンスミュージック界の重鎮、作曲家でありゲーム開発者でもあるローラ・シギハラ、そしてケニー・ビーツやイルマインドのようなプロデューサーも参加しています。
チャンとトイは、Twitchを使うアーティストは、サービスの最大のコミュニティであるゲームストリーマーの配信から、何が有効かを学ぶことができると述べます。
「まずゲーム配信から得られることは、Twitchをソーシャルメディアのプラットフォームとして捉え直すことです。アーティストはTwitchにアプローチする際、Twitterを使うように自分の発言を主張するアプローチから入る傾向があります。Twitchの場合、チャットやコミュニティ機能、オーディエンスの参加が重要で、アーティストの発言と同じほどの重要性を占めています」とトイは語ります。
さらにトイは「アーティストはTwitchを演出されて、宣伝されたライブ配信を行うプラットフォームではなく、もっと制作舞台裏のような素の表情を見せるプラットフォームとして捉えることで、より多くの恩恵を受けることができる。アーティストが自分の生活にストリーミングを活用する方法では、すでに自分が普段やっていることに、Twitchを使ってファンを巻き込んでいくことです」と付け加えます。
チャンもこれに同意します「Twitchがライブのステージや、カメラの前に立つことと同じと捉えるアーティストがいます。しかし、Twitchには楽屋裏の体験をファンと一緒に共有できるというアプローチがあります。これを繰り返していくうちにファンとのインタラクションにアーティストも力を入れるように考え方が変わっていくこともあります」
Twitchはライブパフォーマンスをすることもできますが、アーティストができることはそれ以外にも多くあります。例えば、アーティストがTwitchを活用する方法では、ファンとのQ&Aや、ゲーム実況もあります。
「リアルタイムで歌詞を書く作業を見せたり、Ableton Liveでビートメイキングを見せるアーティストもいます。料理を見せてあげようとレシピをファンから募集するアーティストもいます。アーティストが情熱あるテーマが大事です。」
Twitchで収益をあげる方法は、チャンネルのサブスクリプションや、バーチャルグッズのビッツを使った投げ銭機能があります。熱心なファンはこれらを使って配信を盛り上げることを楽しんでいます。
「Twitchで収益に繋がるチケット販売、グッズ販売などにお金を払うのは、オーディエンスのごく一部です。Twitchではこうしたファン、スーパーファンをアーティストと交流する機会を与え、マネタイズを支援する方法を提供しているのです」とトイは説明します。
ファンがお金を使ってもらうために何度も宣伝する必要はありません。「多くの場合、ビッツを贈る視聴者や何度も利用してくれるファンに感謝の気持ちを伝えるために、配信中にファンの名前を呼んだり、直接感謝することが大事になってきます」とチャンが述べました。
トイは、アーティストはTwitchを活用して、自分たちのプロジェクトをファンに知ってもらうこともできると述べます。例えばアーティストのmxmtoonは、自身のTwitchチャンネルで、Spotifyで配信する自分の番組の舞台裏についてトークを配信しています。重要なことは、スケジュールされた一度のイベントにするのではなく、定期的に「放送」することにコミットすることです。「できるだけ規則的なスケジュールを守ることが大事です。それができれば、リピーターを促進し、視聴者の期待が高まっていきます」
「Twitchと他のSNSとの差別化要因は何か?」という質問に対して、チャンは「音楽業界の常識とは違う世界」とチャンは述べます。
「アーティストは、成功するためには、ファンや売上、フォロワー、再生数がミリオン級でなければいけないと長年言われてきました。しかしTwitchで見られるのは、その数字での評価が全てではないということです。重要なのは、実際にアーティストをサポートしてくれる本物のファンの存在です。そうしたファンとインタラクションを行うことで、マネタイズできる規模が高まります」
Twitchの活用を考えているアーティストは、まず視聴者としてTwitchに参加することだと、チャンはアドバイスします。「自分のスタイルに近いアーティストのコミュニティに、自分が参加してみることです。参加するだけで、アイデアが思いつくでしょうし、自分の目で見ると、簡単だということも分かってくるはずです」