今年7月、イギリスのアーティスト、Portisheadは、ABBAの「SOS」カバー曲をSoundCloudが提唱する「ユーザーセントリック方式」(Over Centric Payment System、UCPS)の収益分配システムを使い、新しいアーティストのマネタイズ方法を実験しました。UCPSは、現行で標準化されている音楽ストリーミングからの収益分配モデルの「比例按分方式」よりも、個々のアーティストにファンが聞いた分からの収益が分配される新しい分配システムの考え方です。SoundCloudはこの「ファン主体型」の収益分配を同プラットフォームのマネタイズ機能を使う約10万組以上のインディペンデントアーティストに実験的に開放してきました。
SoundCloudはPitchforkの取材に対し、同曲の実績を共有しています。同社によれば、「SOS」は通常の比例按分方式で得るはずの収益の6倍以上を得たことを明らかにしました。同曲は現在まで14万6000回以上再生されました(記事執筆時)。収益の比較では、500%以上になります。SoundCloudによれば、「支払いデータの集計は今後数カ月以内に実施する予定」とのことでした。
一方、Portisheadのジェフ・バーロウは「ファン主体型の収益分配は、アーティストを本当に支援したい人にとって絶好の機会です。音楽をストリーミング配信すればお金に変えられることを伝えたかった。ピザを注文できるのか、家賃を払えるのかでは、雲泥の差があります」とPitchforkに答えています。
UCPSでの収益分配は昨今、イギリスの国会議員が音楽ストリーミングプラットフォームがアーティストや権利者に対して公平な利益分配を行っているかどうかを調査する議会喚問で注目を高めました。UCPSのメリットの一つとして、アーティストはより正確なリスナー行動のデータの取得ができるため、物販やツアーチケットの販売強化にも繋がり、音楽活動からの収益化を広げると考えられています。しかし、UCPSに異議を唱える関係者や業界団体もいます。支払いシステムやデータ管理の複雑性から運用コストの高騰が指摘されるなど、本格的な導入にはますますの議論が必要とされています。