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Music AllyとMusic Business Associationとで共同開催した、世界の音楽業界の経営者や有識者、起業家が一同に会する音楽ビジネス・カンファレンス「NY:LON Connect」において、「音楽ディストリビューターの未来」をテーマにしたパネルディスカッションが行われました。

同パネルにはには、グローバルディストリビューターのThe OrchardとFUGA、アフリカ・ナイジェリア拠点のディストリビューターのFreeme Digital、インディーレーベルとディストリビューターのデジタルライツエージェンシーのMerlinから、有識者が参加して行われました。

ディストリビューターが担う役割とは?

アフリカ音楽を世界に配信するディストリビューターであるFreeme Digitalの最高経営責任者、Michael Ugwuは、音楽業界における成長領域と新興市場であるアフリカの急速な進化について説明しました。

アフリカでは音楽業界のデジタル化における初期には、Freeme Digitalはアーティストに対して、ディストリビューターが何をする会社で、どのようなサービスを提供するのか、を説明しなければならなかったそうです。今では「私たちのクライアントは、より理解度が洗練されてきました。音楽会社の観点からも、ビジネスの観点からも、音楽ビジネスに対する理解はより深まってきました」

「アフリカ市場には多くの投資が集まってきています。この分野の全てのステークホルダーは、レベルアップしなければなりませんでした。ディストリビューターは、サービスの質を向上させる必要があります」と彼は述べます。

The Orchardのグローバル・レーベル管理およびセールス担当の上級副社長であるTricia Arnoldによると、ディストビューターが担う重要な役割はアーティストたちへ知識を提供していくことであると語る中、提供する知識や情報の内容が進化しているとも述べます。

「非常に多くの情報が存在し、異なる地域には非常に多くのプラットフォームがあります。音楽流通の分野では、クライアントへの教育は、今でも非常に重要な要素です。アーティストやレーベルに対して、どのプラットフォームが最適か、どのような利用方法が最善か、を教育していくことは大切なことです」

世界進出の戦略を実現する音楽企業

FUGAのアジア・パシフィック事業開発マネージャーのAnita Zagarは、アーティストやレコード会社の戦略が世界的に変化しているトレンドについて話しました。

「アジアの音楽企業は、以前はローカル市場向けのアーティスト育成に終始していましたが、今ではどの企業も国際的に成長できるアーティストの育成に注力しています」

「数年前までなら、『アメリカ市場をターゲットにしよう』と私が音楽企業に提案しても、企業側が『誰も私たちのアーティストの音楽は聴かない。オーディエンスがいません』と拒否されました。しかし、現在はグローバルレベルの繋がりが実現しています。その可能性をビジネスに変えるレーベルや音楽企業が存在しています。その可能性でさえもさらに拡張する必要があることも理解しています」

「ディストリビューターの基本的な存在価値は、クライアントの知識をレベルアップさせるために存在すると思います(中略)例えばアーティストがアメリカに進出したい時、アメリカ進出するための必要事項が何かを明確に示すために存在します。台湾に進出したいのであれば、台湾は他とは全く異なる市場であることを理解しなければなりません。アーティストや音楽企業はその国に最適なツールが必要なのです」

変化し続ける音楽消費の変化に対応する方法

Zagarはまた、複雑化が加速する現代の音楽市場におけるディストリビューターの進化についても語りました。

ここでは、ディストリビューターたちの仕事はアーティストやレーベルが楽曲をリリースできるよう支援する以上のことが含まれます。

「最近では、バイラルヒットを作れるか否かを確認するために、TikTokだけで楽曲をリリースした後、他のプラットフォームで配信を始めるレーベルもあります。アーティストやレーベルの中にはデータ活用に長けた人達がいます。音楽ストリーミングサービスのデータをディストリビューター経由で集めて、分析し、楽曲のリーチを最大化する方法を理解しています」

しかし、Zagarは、現代のアーティストが背負う負担に懸念も示しました。

「楽曲のリーチを最大化する方法だけでは何も解決しません。ファンを見つけ、オンラインでの存在感を高めることが重要になってきました。SNSの露出が重要です。アーティストにとって、SNSの時流に乗り続けるために、あまりにも多くの負担がかかっていることは以前から議論されてきました」

アーティストの負担を減らすため、Ugwuはディストリビューターがタスクの一部を担う取り組みを始めました。

アーティストが出身地域以外の市場や海外進出する手助けをするために、「準レーベル型システム」という仕組みを導入し、アーティストが新たなファンを獲得するためのコラボレーションやプラットフォームを見つけるサービスを提供しています。

MerlinのCOOであるCharlie Lextonは、世界の成長市場では、音楽消費者の行動が変化していると語ります。

Lextonは、音楽成長国では、グローバル音楽ストリーミングサービスが始まった時、初期のリスナーは欧米アーティスト好きに偏っていたものの、時間の経過とともに、嗜好傾向が変わっていくと説明します。これらの変化は、地元のディストリビューターが多く立ち上がったこと
によって加速しています。

「この変化は、音楽サービスへのアクセスを民主化するだけでなく、成功する音楽を多様化します」とLextonは説明しました。

「地元の音楽市場が成熟するにつれて、ますます多くのローカルアーティストの楽曲が再生されていきます。ソーシャル要素が強くなっています。(成功するかどうかの選別を恣意的にする)ゲートキーパーの要素が排除されることで、ローカルなアーティストが成功する機会が増えていきます」

「ローカルアーティストの成長は、音楽の輸出へと繋がっていきます。良質な循環が始まり、投資ができます。Merlinには、ローカルな音楽企業のビジネス拡大に焦点を当てたディストリビューターとアグリゲーターが参加しています」

世界の音楽市場に進出する上での課題とは?

音楽市場では今、一見矛盾するかのように見える複数のトレンドが、同時進行しています。

一方、母国で多くの再生回数を獲得する地元のアーティストや楽曲の存在が際立ち、国際的な音楽のシェアは減少しています。

Arnoldは「国境を越えて音楽を他の国に伝える機会は増加しています。これは非常に刺激的です。(中略)トルコでバイラルヒットを作ったメキシコ出身アーティストがいます。もちろん、韓国発の音楽の存在も見逃せません。K-Popが世界的に巨大なヒットとなるとは数年前には誰も予想していませんでした」と述べました。

「現代の音楽市場は、非常にローカル重視な構造になってきました。ローカル市場とグローバル規模な機会創出は絶妙なバランスで成立しています。だからこそ、ディストリビューターは非常に有利な立場にいます。ディストリビューターはローカルとグローバルのデータを獲得できます。そして、当事者であるアーティストよりも先にデータを見ることができるのです」

Ugwuは、アフリカの音楽が世界的に広まっているトレンドの中で感じるフラストレーションについて語りました。ローカル音楽の世界進出のトレンドは一見、魅力的に思われますが、楽曲がどのように世界でキュレーションされ、消費者に届いているか、問題がある、と述べます。

「多くの人がアフリカの音楽について語るとき、国によってさまざまなジャンルがあるにもかかわらず、『アフロビーツ』と、単一カテゴリーで紹介しています。ジャンルの中にはダンスホールもあれば、Amapiano、クワイト、ハイライフもあります。大陸の隅から隅まで様々なジャンルがあります」と、アフリカ音楽の世界進出における自身の経験を引き合いに出して語りました。

「私たちは、我々の音楽を世界に向けてブレークスルーさせようとしていましたが、一曲だけがヒットしたり、1組のアーティストが世界で知られることとは、全く異なる活動です。音楽市場を教育していく活動が大部分を占めます」と述べます。

「ある時点では、私たちの手がける音楽は『ワールドミュージック』にカテゴリーされていました。今では、ラジオ局や音楽ストリーミングサービスの担当者が、アフリカには10億人以上の人々がさまざまなカテゴリーの音楽を聴いていることを理解してきました。その認識に応じてサービス側は調整してきました。こうした領域でも、私たちの仕事の大部分は教育でした」

ローカル音楽サービスが重要な理由

Ugwuによると、世界的な音楽ストリーミングプラットフォームとの競争が激化してきたにも関わらず、ローカルの音楽ストリーミングサービスは依然として重要な存在価値があると言います。

「現実的なところ、ジャンルやカテゴリーの問題はグローバルプラットフォームで発生しがちです。ローカルプラットフォームは、ジャンルやカテゴリーに非常に敏感です。アーティストの分類が重要な役割だからです。アーティストがローカル市場で成長するにつれて、主要なDSPも『このアーティストはこのジャンル、このプレイリストに入れる必要があるのか』と理解して、修正しています」

ディストリビューターの進化における未来は何か、というテーマについて、Arnoldは、クライアントが新しいストリーミングサービスやSNSプラットフォームを利用するための支援を続けることが鍵になると述べました。「数年前にはTikTokを話題にする人はいませんでした。新しいプラットフォームは今後も増えていくでしょう」

Zagarは今後、コラボレーションの重要性がさらに高まると予想します。「歌詞は、英語やスペイン語に限らず、あらゆる言語が融合していくでしょう。(中略)多くの消費者にリーチする音楽は、よりジャンルレスで多言語になっていくはずです。例えば、中国人アーティストは、中南米にリーチするためだけに、スペイン語をサビの部分に組み込んでいます。多言語化が進むことで、コラボレーションが増えると思います」

アーティスト投資、NFT、Web3

Lextonは別のトレンドに注目しています。それは、ディストリビューターとインディーレーベルがアーティストに投資する機能の向上です。

「伝統的に、レーベルとディストリビューターの大きな違いは、レーベルにはアーティストに投資できる大きな資金があることで、前払いで報酬を支払い、アーティストと契約できることでした。しかし、音楽業界ではあらゆる部分が進化しています。10年前には、インディーレーベルは資金調達に苦しんできました。今は、毎週のように新しい契約獲得のニュースが出てきます(中略)もしディストリビューターやアグリゲーターのビジネスモデルに投資したい人が増えれば、さらに多くの資金が入り、レーベルとの競争力がさらに高まるでしょう」

UgwuもLextonの意見に同意します。そして、ディストリビューターが今後関与する新しい事業分野として、メタバースやNFTなど、急速に成長する技術について語りました。

「NFTによって、アーティストはファンベースにさまざまな所有権を販売できるようになりました。『1000人の真のファン』というコンセプト(アーティストが成功するためには真のファンが1000人必要だとする仮説)が現実化できます」

「NFTのような技術はもっと普及するでしょう。(中略)ディストリビューターやレーベル・サービス会社は、時流がどこに向かっているかを理解し、最善の準備をしなければなりません。これは究極的に教育の重要性に繋がっていきます」

「NFTへアーティストが参入するには、ディストリビューターのツールに楽曲のデータをアップロードするよりもはるかに難しい話です。コミュニティの構築、Web3の本質を理解しなければなりません」と彼は続けました。

「ブロックチェーン、暗号資産などは、異なるルールで運用が求められます。アーティスト個別に何が成功するか、を見極めるためにも、教育の重要性に立ち戻るわけです。TikTokで成功するアーティスト、Instagramで成功するアーティスト、YouTubeで成功するアーティストもいれば、成功しないアーティストもいます。NFTが得意なアーティストが生まれる一方、失敗するアーティストもいてもおかしくありません」

翻訳:塚本 紺

編集:ジェイ・コウガミ