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Amazonは、音楽サブスクリプションサービス「Amazon Music Unlimited」で、Audibleと連携し、音楽サービス内でオーディオブックの提供を始めます。Amazon Music Unlimitedの米国、英国、カナダのユーザーは、Audibleサブスクリプション無しで、毎月1冊のオーディオブックを選択して再生できるようになります。追加のオーディオブックを再生する場合は、Audibleのサブスクリプションに契約するか、個別にコンテンツを購入できます。

今回の連携で、Amazon Music Unlimitedは、米国で約100万冊、英国では約80万冊のオーディオブックの提供が可能になります。そして、HDオーディオや空間オーディオのカタログ楽曲配信に加えて、ポッドキャストと共に音楽以外の音声コンテンツが強化されました。

今回の発表に先立ち、Music Allyで行ったインタビューで、Amazonの音声・Twitch・ゲーム事業担当副社長のスティーブ・ブーム (Steve Boom)は、音楽ストリーミングとオーディオブックとの連携の戦略的意義について、次のように語りました「私たちは、音楽サービスを利用していながら、オーディオブックのサブスクリプションを必要としない人や、オーディオブックの分野にそれほど詳しくない、よりカジュアルなリスナー層にリーチしようとしています

「私たちには、2つの異なるサービスと、2つの異なるターゲット顧客セグメントがあります。今回の連携は、よりカジュアルなリスナーのターゲット層に非常にマッチしています」

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差別化が進む音楽ストリーミング各社

ブームは、2022年までAmazon Musicの副社長を務めていました。彼の役割は、現在は、オーディオコンテンツ事業、Twitch、ゲームを含むまで拡大しました。そのため、Audible事業の全体像も把握でき、オーディオブック人気についても洞察を理解しています。

Amazon Musicの発表は、音楽ストリーミング各社で見られる業界トレンドを反映しています。純粋な音楽ストリーミングサービスは減少しつつあり、ポッドキャストやオーディオブック、その他のコンテンツが、配信コンテンツに統合される傾向が、さらに広がっています。

ブームは、音楽業界の傾向について「以前は、音楽ストリーミングサービス各社が、同じカタログ楽曲を提供していましたが、現在は、徐々に差別化が進んでいます。ハイレゾ音楽や空間オーディオの再生は、主要サービス間で見られる差別化の最初の分岐点だと思います」と述べます。

「これは、サービス各社が、音楽市場で独自のUSP (ユニークセリングポイント)を確立し始めたことの証明でもあります。そして、あらゆるサービスが『オール・オーディオ』に進むわけではないと思います。具体的な名前は挙げませんが、非音楽コンテンツを一切配信していないサービスもあります。一方、私たちの場合、『オール・オーディオ』の道を確信しています。音楽は最も広範な魅力があります。世界中の音楽サブスクリプション利用者数がその証拠です」

追加料金払い、プレミアム・アドオンの可能性

業界の流れでは、音楽ストリーミングサービス各社は、基本プランの中で、全ての形式の音声コンテンツを提供し始めています。一方、リスナーやユーザーの間では、追加コンテンツやオプションの利用では、追加料金を支払う流れが始まっています。例えば、オーディオブックのアラカルト購入、ポッドキャストの個別サブスクリプション、または「音楽のスーパーファン」機能などが含まれていきます。この傾向について、ブームは同意します。

「サービス各社が、異なる形式のコンテンツを提供し始めれば、熱心なファンが特定のジャンルやメディアでの追加コンテンツを求める傾向が見えてくるでしょう。例えば、より多くのオーディオブックや音楽を聴きたい、新しいファン体験が欲しい、といった追加コンテンツが求められるでしょう。このようなプレミアム・アドオンは、より特定のコンテンツやジャンルに特化していく可能性があります」

しかしまた、音楽業界の中では、ストリーミングサービス各社が「オール・オーディオ」化することに不安を感じる人も少なくありません。音楽配信と音声コンテンツとで、収益分配を競争しなければいけないからです。ブームは、ポッドキャストが音楽再生とのカニバリゼーションの可能性について、次のような議論を示しました。

「顧客にとって、素晴らしいことです。そして、音楽業界にとっても非常に有益だと思います。あらゆるデータが明確に示す通り、人々の音楽サブスクリプション利用が拡大できるからです。サブスクリプションの価値が高まるため、加入者が伸び、解約率が低下します。結果的に、書籍の出版社、ポッドキャストのクリエイター、レコード会社、音楽出版社を含めて、あらゆる人が恩恵を受けることができます」

AudibleのCEO、ボブ・キャリガン (Bob Carrigan)も、Music Allyとのインタビューに参加しました。その中で、Amazon Music Unlimitedでオーディオブックを提供することへの見解を述べました。

「これは成長戦略です。新しいオーディエンスにリーチすることが目的です。オーディオブックのサブスクリプションに踏み出せない潜在的な顧客や会員がいることは分かっています」

「もう一つ、素晴らしいことは、クリエイターにとっても良いという点です。私たちは、出版社や作家、特に独立系作家と協力しており、作品を広めるための有意義な機会を常に探しています。作品を販売できる機会を増やしたり、シリーズのファンになってもらったり、露出する機会を増やそうとしています」

今回の連携では、Audibleのパーソナライゼーション・エンジンが組み込まれます。これによって、レコメンドされるオーディオブックは、Amazon での紙の書籍や電子書籍の購入履歴に基づいて、オススメされます。

 

ブームは、2024年4月にリリースされたジョージ・オーウェルの『1984』のAudibleオリジナル・アダプテーションを、音楽とオーディオブックの枠を超えたプロジェクトの事例として挙げました。

「単に誰かが本を朗読していることと異なります。全く新しい脚本、オーディオプレイを用意し、アンドリュー・ガーフィールド、トム・ハーディ、シンシア・エリヴォといった一流の俳優たちが出演しました。ロックバンド『Muse』のマット・ベラミーが音楽を担当しました。素晴らしい作品になりました」

「2025年末には、『ハリー・ポッター』シリーズのマルチキャスト制作も発表しました。この分野のリーダー企業が、オーディオブックを単なるコンテンツの新しい形式として捉えるのではなく、アートとして水準を引き上げることを考えています」

Amazonの新バンドルを楽観視する音楽業界

音楽ストリーミングサービスがオーディオブックをサブスクリプションに追加する際、音楽業界各方面から強い批判を受けます。Spotifyは、プレミアムプランにオーディオブックを追加した時、プレミアムプランの「バンドル」扱いに再分類したことで、米国の作詞作曲家や音楽出版社に支払ってきたメカニカル・ライツ (録音権)の収益分配を削減しました。この決定を非難する声が音楽業界から多く上がり、米国の著作権徴収団体のMLC (Mechanical Licensing Collective)はSpotifyを相手に訴訟を起こしました。

Spotifyがバンドルプランで支払う低い分配料率を問題視、音楽出版の業界団体NMPAが反対

一方、Amazon Musicがオーディオブックを追加する今回の連携に対しては、音楽業界からは批判の声が聞こえてきません。Spotifyを批判してきた米国の全米音楽出版社協会(NMPA)は、Amazon Musicの発表に併せて、同社に肯定的な声明を発表しています。

「私たちは、Amazonの新しいバンドルを楽観視しています。AmazonはSpotifyと異なり、音楽出版業界やソングライター業界に対して敬意があり、生産的な形式で関わってきました。新しいAmazonのバンドルがソングライターの収入を減らすことはないと予想しています。Spotifyと異なり、Amazonは音楽クリエイターをビジネスパートナーと捉えており、収益分配が発生する前に契約を結ぼうとしています」