どの国でも、毎年好例となっているのが、今後ブレイクする可能性ある、新人アーティストや新進気鋭アーティストを音楽業界の関係者やDSPが選出する若手支援プログラムですが、イギリスのBBCが毎年発表している、期待の若手リスト「サウンド・オブ・2025」の選出方法が、議論を呼んでいます。
BBCが選出した11組の新人または若手アーティストの中には、既に今年8月にイギリスのアルバムチャートで1位、シングルチャートで2位を獲得したアメリカ人シンガーソングライターのチャペル・ローンが選ばれました。
また、チャートでトップ10入を既に実現したEnglish TeacherやEzra Collective、Myles Smithも選出されました。
さらには、グラミー賞など数多くの賞で評価されてきたDoechii、BBCのラジオ局が積極的にプレイリストや企画でプッシュしたConfidence Manなども選出されたことで、次のブレイクスルーや新進気鋭を予測するよりも、十分に実績あるアーティストが優先されたことが、論争を引き起こしました。
選出された11組は以下です。
Barry Can’t Swim
Chappell Roan
Confidence Man
Doechii
English Teacher
Ezra Collective
Good Neighbours
KNEECAP
Mk.gee
Myles Smith
Pozer
「サウンド・オブ」のアーティストを選出する委員会は、180人以上の音楽業界の関係者、アーティスト、音楽ジャーナリスト、DJ、ラジオ番組やTV番組のプロデューサー、SpotifyなどのDSP、グラストンベリー・フェスティバルなど音楽フェスティバルの代表などから構成されています。その中には、エルトン・ジョン、デュア・リパ、ジョルジャ・スミス、サム・スミス、The Blessed Madonnaなどのアーティストも参加しています。
BBCは、23回目を迎えた2025年のリストから、選出方法を変更しました。BBCによれば、変更により、より知名度の高いアーティストが含まれる結果となったとしています。また、2024年9月30日の時点で、UKトップ10アルバムを2作以上、UKトップ10シングルを2曲以上あるアーティストは選外としています。以前は、UK1位または2位のアルバム、UKトップ10シングルを持つアーティストが選外とされてきました。チャートヒット作品に対するルールが緩和されたため、チャペル・ローンなど、チャート1位を獲得しているアーティストでも、対象に含まれてきます。
BBCはまた、選考基準が、音楽ストリーミングでの成功と、一般社会での成功での違いも加味されたことにも触れています。現に、バイラルヒットやストリーミングヒットを達成しても、知名度が上がらないアーティストは大勢存在しています。また、一時的にチャートで上位を占めるだけのアーティストもいます。その反面、チャート実績には反映されなくても、音楽やクリエイティブが高く評価されるアーティストも多数存在しています。こうしたことから、再生数やチャート、メディア露出など断片的な指標だけでは、ストリーミング時代において、若手アーティストのブレイクの予測は難しいことが示唆されます。
また、「若手アーティスト」の基準も、音楽業界の中でも統一されておらず、音楽活動が5年未満という場合もあれば、10年未満という場合もあり、認識はそれぞれ異なってきます。一方では、TikTokでリリース前の楽曲を配信して成功させるアーティストもいるように、ブレイクのキッカケが多様化しています。音楽業界の中でも、BBCのように、若手アーティストの基準は、音楽ストリーミングやSNS、チャートでの成功や、一般社会での認知など、音楽再生や消費、時代に合わせて見直す必要に迫られているとも言えます。