アップルは音楽支払いの新しいモデルをローンチしたいと考えており、メジャー・レーベルは、それが持つ意味を懸念している。これは、何も、iTunesストアのローンチに先立って、アルバムの中の曲を一曲からでも買えるようにすることも含む交渉が持たれた、2000年代初頭という過去の話ではない。2019年においてメジャー・レーベルの警戒を引き起こしているのは、フィナンシャル・タイムズの言葉を借りれば、Apple Musicを近日中にローンチ予定のApple TVおよび動画ストリーミング・サービスと組み合わせた「メディア・コンテンツのスーパー・バンドル」である。

「交渉に詳しい情報筋によると、双方はまだ、価格設定の公式については議論をしておらず、話し合いは初期段階にあるという。一部のレーベルはアイデアを受け入れているが、大手レコード会社の人々は、懸念があり、業界がアップルとの関係に、今までよりも慎重になっている。アップルが、SpotifyやApple Music、その他のストリーミング・サービスが課している月額10ドル以下に価格を設定した場合、利益が損なわれる可能性があることをレコード会社の幹部陣は恐れているようだ」とフィナンシャル・タイムズは報道している。

エンターテインメントのバンドル(セット売り)は、既に存在している。例えば、Spotifyは一部の国で、Huluとパートナーシップを組んでいるし、Amazon Primeの存在もある。特に、Amazon Primeは、電子書籍やオンライン・ショッピングの無料配送、音楽ストリーミング、動画ストリーミングなどを組み合わせており、「スーパー・バンドル」と呼ぶにふさわしいだろう。「音楽と非音楽のサービスのセット売り」は、著作権使用料委員会によるロイヤリティ率引き上げに対してSpotifyが引用した理由の一つとなっており、出版社を激怒させたが、これらのサービスについては、どちらに対してもそれほど大きな議論とはなっていなかった。

アップルのエンターテインメント・バンドルの展望に対するレーベルの警戒は、主に二つの懸念事項に分けることができる。一つは、独立型の音楽サブスクリプションに関して認識されている価値に影響が出るのではないかということだ。もう一つは、動画と音楽を組み合わせたバンドル(アップルはゲームやニュースなどのその他のサービスを追加する可能性もある)を提供する企業がどのように、これらの異なるコンテンツ・タイプの権利所有者およびパートナーと収益を分割するつもりなのか、ということだ。

「消費時間のシェアごとにロイヤリティのプールから分配する」という一見単純そうな計算方式でさえ、ゲームで遊んでいる最中やニュースを読んでいる最中にも音楽がストリーミング再生されうる可能性のために、複雑となっている。すでに、音楽はYouTubeやNetflix、Fortniteなどのサービスと、人々の注目を競っているとして、「アテンション・エコノミー※」が音楽業界のカンファレンスで話題となっている。エンターテインメント・バンドルは、この競争を大幅に促進することになるだろう。また、「アテンション・エコノミー」の測定方法は、収益に直接的な影響を与えることになるだろう。

こうなると、レーベルが警戒するのも無理はないと言えるだろう。レーベルは、エンターテインメント・バンドルの可能性を完全に妨害する姿勢というわけではない。エンターテインメント・バンドルという存在が人々にとって魅力的であれば、いずれそれは実現されるものであり、明るい面を見るならば、音楽のみのサブスクリプションには登録してこなかった人々を新たに取り入れる機会となる可能性もある。それよりもレーベルは、スーパー・バンドルにおける音楽の取り分をできるだけ公平に確保することに注力しているようだ。音楽を聴くこと、動画を視聴すること、ゲームをプレイすること、ニュースを読むことなど、様々なモードがあることを考えると、何が「公平」であるかを決定するのは、非常に主観的なプロセスになるだろう。

フィナンシャル・タイムズが報道したように、話し合いはまだ初期段階にある。アップルがスーパー・バンドルを発表する可能性が最も高いのは、来年6月に開催されるアップルの世界開発者会議においてか、来秋のハードウェア発表会に伴う形になると思われる。そのため、今回挙げられた問題については、まだしばらく探究の余地があると言えるだろう。

その間にも、アップルはApple Musicを改善すべく努力を継続している。Wiredによる複数のアップル幹部とのインタビューでは、Apple Musicの主要プレイリストに基づいたBeats 1の番組や、さらなるライブ・イベント、そしてさらなるライブ配信にアップルは取り組んでいると明かされている。エンターテインメント・バンドルにおけるApple Musicの定着力が高ければ高いほど、音楽業界やアーティストにとっては良い結果が導きやすいため、そういった文脈でこれらの動きも重要であると言えるだろう。

※アテンション・エコノミー=人々の関心や注目の度合いが経済的価値を持つという概念