テクノロジーのジャーナリズム分野で頻繁に使用される言葉に、「キラー」がある。「キラー」は、あるデジタル・サービスが、より大規模なテクノロジー企業がローンチした競合サービスや模倣サービスによって脅威にさらされている状態の時に使用される。

では、Apple Musicは「Spotifyキラー」だったかというと、そうではない。Google+は「フェイスブック・キラー」だったかというと、これも当てはまらない。「Vineキラー」となったのは、Vineの親会社だったことが判明している。

フェイスブックは、PokeやSlingshotというアプリで「スナップチャット・キラー」になろうとして連続で失敗している。フェイスブック傘下のインスタグラムは、ストーリー機能によってスナップチャットの成長を妨げているかもしれないが、スナップチャットはまだまだ「死んでいる」という状態からは程遠い。一年前にローンチされたLassoというアプリも、まだTikTokの成功には追いついていない。

インスタグラムが、「Reels」というTikTokから大きく影響を受けた機能をブラジルでテストしている。しかし、歴史から学ぶとすれば、まだ「TikTokキラー」と呼ぶにはまだ早いだろう。「Reels」は、ミームの共有と動画のリミックスに適した環境で、音楽をバックグラウンド・ミュージックとした15秒の動画を使用できる機能となっている。

「TikTokの前身であるMusical.lyと、TikTokには、このフォーマットを普及させた功績が大いにあると考えています。音楽とともに動画をシェアすることは非常に普遍的なアイデアであり、誰もが興味を持っている可能性があると思います。このアイデアを我々独自のフォーマットにすることにフォーカスを当ててきました。」とインスタグラムのプロダクト・マネジメント・ディレクターであるロビー・スタイン氏はTechCrunchにコメントしている。

インスタグラムは、人々がすでに友人と繋がっているインスタグラムという巨大なコミュニティに「Reels」がうまく溶け込むだろうと主張している。しかし、音楽業界の観点から考えれば、TikTokとの一番の違いはライセンスにあると言えるだろう。「Reels」は最初から、ユーザー生成コンテンツにフォーカスした、フェイスブックの幅広い、音楽権利保有者と徴収団体とのライセンス契約の恩恵を受けるのに対し、TikTokはその一部において、別の段階を歩んでいるからだ。

「Reels」によるTikTokへの競争上の影響は、ユーザーがTikTokから移ってしまうかどうかだけでなく、TikTokとの将来的な交渉に先立って「Reels」が確立しかねない基準値および期待値のテンプレートにもあると言えるだろう。

インスタグラムが音楽関連で何か新しいことや、さらにエンゲージメントを高めることを実施するときはいつも、音楽業界にとっていい方向に動くことが多い。もちろん、TikTokなど、他のアプリに悪影響を与えるか(キラーになるか)どうかはさておき、だ。

しかし、その点では、TikTokが単なる「音楽クリップに合わせてダンスを踊ったり、モノマネをする15秒の動画をシェアするアプリ」ではないことを覚えておく必要があるだろう。TikTokは急速に独自の文化を進化させてきており、若いオーディエンスはそのためにTikTokを愛用するようになっているのだ。インスタグラムは機能をコピーすることができ、興味深い結果をもたらすことができるかもしれないが、TikTokの文化そのもののコピーに成功することは、難易度が高いと言えるだろう。