• 投稿カテゴリー:音楽業界

音楽ストリーミングサービスの収益が年々かつてない規模に増加している中、収益分配を決める企業間の水面下での駆け引きについて噂は、音楽業界内では付き物です。

ただし、これらの噂はDSPやメジャーレーベルからリークされた情報だけとは限りません。フランスの独立系ディストリビューター、Believeの創業者兼CEOのDenis LadegaillerieがMusic Business Worldwideのインタビューで「(グローバル)メジャーレコード会社が音楽ストリーミングサービスに圧力をかけて、DIYアーティストに対して、既存のスーパースター・アーティストが受け取るロイヤリティよりも低い料率を支払わせようとしている」と指摘したことは、音楽ストリーミングとレコード会社の関係において、さまざまなレベルでの問題提起となりました。

「メジャーレーベルがDIYアーティストより高いロイヤリティを得ることができる」という考えは、大変興味深い思考に違いありませんが、これを実現するためには非常に多くの難題が存在していることも理解しておくべきでしょう。

第一に、仮にメジャーレーベルが高いロイヤリティを望んだとしても、DSPがメジャーの望む対価を本当に与えるでしょうか? もしくは、与えることができるでしょうか? DSPがメジャーレーベルのロイヤリティを増やす方法は幾つも考えられますが、サブスクリプション利用者の課金額が増えない限り、対処方法はどこかで何かのレートを下げることです。

こうした指摘は、DIYアーティストにとっては聞き捨てならない意見ではないでしょうか? 音楽経済学者のウィル・ペイジ(Will Page)は昨年、DIYアーティストがリリースする作品数はメジャーレーベル契約アーティストの8倍以上まで増加していると説明します。さらに「(収益の)パイは確実に大きくなるが、その一部を求めるクリエイターの増加率はさらに加速します」とも指摘していました。

音楽ストリーミング各社は、これまでDIYアーティストとより良い関係を築こうと努力してきました。そのため、既にアーティストの収益分配の問題でネガティブな注目を浴び、ユーザー・セントリックな分配システムも考慮し始めたDSPが、アーティストとの関係を損なうリスクを冒すとは思えません。DIYアーティストが世界的なスターアーティストに成長する可能性を獲得できるのも、DSPの影響と言えます。

次に、DIYアーティストがどの時点でメジャーレーベル方式の「プレミアム」な料率に変わるのでしょうか?プレミアムな料率で収益を得るには、メジャーと契約しなければならないのでしょうか?

仮に、ワーナーミュージックのADAや、ソニーミュージックのThe Orchardのようなメジャー運営のディストリビューターが、メジャー内でより大きな収益を占めるようになったとすれば、彼らと契約するアーティストの間でも、プレミアムな料率か、DIYアーティストの料率か、いずれかに分かれるのでしょうか?

Ladegaillerieの主張は、こうした考えを考慮せざるを得ません。一方、メジャーレコード会社が自分たちに有利となるロイヤリティ分配システムを作ろうとするならば、それは歓迎されるものでは無いはずです。昨今の音楽業界では「ストリーミング経済の公平性」を巡る議論があちこちで行われています。例えば、イギリスの議会とイギリス競争市場庁(CMA)は、同国における音楽ストリーミング市場の経済的影響をまとめた調査を仕上げている最中でもあります。