トランプ大統領が、TikTokの親会社であるバイトダンス社と米国企業間の全ての取引を禁止する執行命令に署名した。さらに、別の命令では、メッセージ・アプリのWeChat、つまり、親会社であるテンセントへの禁止にも及んでおり、「テンセントの全ての子会社」が含まれている。

 テンセントと音楽業界企業間で、相互的に投資が行われている現状を考えると、今後、混乱が生じる可能性がある。この命令がテンセントとのWeChatに関連する取引にのみ適応されるのか、より広範に適応されるのか、まだ不明となっていることも一因だ。

 TikTokおよびバイトダンスに関連する執行命令WeChatおよびテンセントに関連する執行命令ともに、期限は45日に設定されており、米国商務長官が45日後に、命令の対象となる「取引を確認する」と書かれている。

 そのため、現在も、禁止の範囲は明らかになっておらず、それが、テンセントが率いるコンソーシアムが10%の株式を保有しており、今後、さらに10%を購入するオプションがある、ユニバーサル・ミュージック・グループや、テンセント・ミュージックの株式を保有しており、代わりに、テンセント・ミュージックと、別のテンセント子会社が株式を保有するワーナー・ミュージック・グループ、そして、テンセント・ミュージックと相互に株式を所有するSpotifyなどにとって、何を意味するか、定かではない。

 これは、音楽業界に限った問題ではない。テンセントは、Snapchatの親会社であるSnap、ゲーム『Fortnite』の制作会社であるEpic Gamesの株式、大手モバイル・ゲーム出版元のSupercellの過半数株式、最大のeスポーツ・ゲームである『League of Legends』の出版元であるRiot Gamesの完全な所有権を有している。

 行政命令の範囲によっては、これら全ての企業が、45日以内に、何らかの決定を行う必要が出てくる可能性もある。たとえ、命令の範囲がWeChatに関連する取引のみに限定されたとしても、トランプ政権が今後、米国で事業を行う中国企業の取り締まりを拡大しないという保証はない。次の大統領選の存在も、今回の問題の不確実性を増加させている。対立候補のバイデン氏が勝利すれば、政策変更となるかもしれないが、第二次トランプ政権となれば、この動きを加速させるかもしれない。

 「短期的に、ユニバーサル・ミュージック・グループ、ワーナー・ミュージック・グループ、Spotifyは、テンセント(およびテンセント子会社であるテンセント・ミュージック・エンタテインメント)との繋がりを断ち切る必要が出てくる可能性があり、場合によっては、テンセントがその持分を確実に売却するようにしなくてはならないかもしれません」と調査会社のMidia Researchは分析している。

 「その後、大きな影響が音楽に及ぶ可能性があります。テンセントは、米国を拠点とする音楽会社への投資に対して、相当額を支払う意志がありました。それにより、音楽資産自体の全体的な価値が押し上げられていたのです。世界経済が景気後退に突入している今、テンセントが突然(場合によっては恒久的に)市場から撤退することで、長期的な影響が出る可能性が懸念されます。」

 バイトダンス社およびTikTokの買収に関しては、現在、マイクロソフトはTikTokの米国およびその他の一部英語圏の事業だけでなく、グローバル事業の買収を望んでいると報道されている。こちらも、45日間の期限付きでプロセスが進んでいる。

 テンセント・ホールディングスの株価は、行政命令のニュースを受けて、10%以上下落し、同社の価値から450億ドル以上が失われた。どの取引が今回の命令に当てはまるのか、これにより、どれほどの影響が出てくるのか、世界的に注目が集まっている。