Music Allyが9月21日からオンラインで開催している、音楽業界カンファレンス「Sandbox Summit Global」では、COVID-19以降の音楽ストリーミング市場で、次に起こるトレンドを議論するトークセッションが行われました。
「ポストCOVID-19時代の音楽ストリーミングの未来」と題したセッションの冒頭では、音楽データ分析のスタートアップ、Chartmetricのチーフ・コマーシャル・オフィサーのチャズ・ジェンキンスが、同社のデータが示唆する幾つかの見解を説明しました。
「2020年、音楽市場で起きたトレンドを一言で説明するなら、それは『揮発性』でしょう。どこで音楽を聴くか、いつ聴くか、なぜ聴くか。私たちが聴く音楽は、この1年の間に劇的に変わりました」とジェンキンスは述べます。COVID-19の大規模感染によって、これまでゆるやかに起きていたトレンドが、急速に進化したことを指します。
ジェンキンスはまた、動画消費のトレンドにも触れました「今年、コンテンツのストリーミング消費に大きな影響を与えたのは、動画です。特にTikTokの動画消費が顕著です。一方で、アマゾンやNetflix、ディズニーなどによる動画のオンデマンド型ストリーミングも利用が大幅に高まりました」。
人々の音楽ストリーミングで聴く楽曲のトレンドにおいても、動画ストリーミングの消費によるドミノ効果が起きているのです。
オーディエンス獲得で成功するアーティストの条件
世界中でアーティストによるライブ動画ストリーミングが成長する中で、ジェンキンスは課題を指摘しています。
「アーティストは、オーディエンスとのエンゲージメントを維持するために、ライブストリーミングを活用した様々なアイデアを実践してきました。しかし、アーティストがライブストリーミングによってオーディエンス獲得に成功した、という証拠はまだありません。ですが、今後アーティストがプラットフォームから学び続ければ、オーディエンス獲得には成功していくと思われます」
ジェンキンスは、SNSでの活動やグローバル・リーチ、ストリーミングでの展開に時間を費やすアーティストと、SNSで時間を過ごし、楽曲を共有するアーティストのファンとの間には、相関関係が増加するトレンドも指摘します。
チャートで新曲が敬遠される?
「今年は、例年以上に多くの新人アーティストや若手アーティストが、新たなオーディエンスを獲得しています。その一方、世界各地の音楽チャートの上位に大きな変化は生まれにくくなっており、完全に停滞状態が続いているとも言えます」
チャートの変化が少ない証拠の一つとして、興味深いデータが紹介されました。
2020年9月15日週には、シングルチャートのトップ200位のうち、29曲が過去30日以内にリリースされた曲であったのに対して、1年前の同週チャートでは57曲もチャートインしていました。
また、2020年9月15日週にトップ200位入りしたシングル全曲のリリースから経過した日数を調べると平均289日でしたが、これに対して1年前は平均183日でした。このことからも今年チャートインする楽曲の入れ替わりが少なく、過去に聴かれ、人気を集めた楽曲がコロナ禍では引き続き好まれている消費傾向がデータで示されたことは、今後新曲をリリース予定のレーベルにとって考えさせられるトレンドとなるはずです。
Photo by Music Ally