AIによって生成された音楽を、どのように音楽ストリーミングサービスが取り締まるか、注目が高まっています。
5月2日、Spotifyは、生成AIを使って制作した音楽を配信している音楽スタートアップ「Boomy」のディストリビューション機能を停止しました。
加えて、Spotifyは、Boomyを使って配信された数万曲を削除しました。
「最近、SpotifyはBoomyからの新譜リリースを停止しました。さらに、一部のカタログリリースがSpotifyから削除されました。今回の決定は、Spotifyと、Boomyが契約するディストリビューターの間で、異常行動の可能性を審査するために基づきます」と、Boomyは同社のDiscordサーバーで発表しました。
Spotifyのスポークスパーソンは、「人工的な再生は、音楽業界全体が長年抱える問題であり、Spotifyはサービス全域において、そのような行為を根絶するために取り組んでいます。再生を意図的に操作する可能性が特定された場合、また、そのような行為に対するアラートが発生した場合、私たちは、再生数の削除や、ロイヤリティ分配の保留などの対策を実行し、影響を軽減します。これにより、誠実かつ努力を惜しまないアーティストが本来受け取るロイヤリティ収入を保護することができます」と回答しています。
SpotifyはMusic Allyの質問に対して、今回の楽曲削除が、Boomyで配信された楽曲で人工的な再生が検出された事が、一部の楽曲削除の理由であることを主張しています。従って、Boomyの音楽がAIによって生成されたことが理由ではないということです。また、Spotifyは、削除対象の楽曲分のロイヤリティ分配も排除しています。
もう一つ、現時点で明確なことは、Spotifyは、Boomyで作成され配信された楽曲の一部で、不正再生を検知しましたが、Boomyが不正を働いたり、意図的に操作したわけではありません。
実際に、Boomyから配信される楽曲は、現在もSpotify上で再生可能であり、「This Is Boomy」など同社が更新するプレイリストも存在します。
Spotifyへのディストリビューション停止と楽曲削除から4日後の5月6日、Boomは再び自社のDiscordで、Spotifyへディストリビューションが再開したことを発表しました。
「厳選したBoomyアーティストの新曲を、Spotifyへ再び配信できるようになったことをうれしく思います。私たちは、詐欺行為や人工的な再生の問題に取り組むため、今後も音楽業界のパートナーと協力していきます」と述べています。
Boomyでは、アーティストでも、アマチュアでも、誰もが音楽を作成し、ボーカルを追加したり編集したシングルやアルバムを、世界中の音楽ストリーミングサービスに配信できます。
2019年のローンチ以来、Boomyを使って生成された楽曲はこれまで1450万曲近くあります。同社は「世界の音源の約13.92%に相当する」と主張しています。ただし、これは生成された曲数で、実際に配信した曲数を同社は公表していません。
BoomyとSpotifyとの間で、どのような議論が交わされたのか、明らかになっていません。また、削除対象となったトラックやアーティストで、どんな不正行為が行われていたか、詳細も公表されていません。
しかし、今後も同様の問題が音楽ストリーミングサービスとディストリビューター間で発生することを想定するなら、焦点となる問題や、不正行為の背景を企業は明らかにし、音楽業界内で共有することが、大事になっていくはずです。一部の不正行為が発端で、楽曲配信が停止することは、ディストリビューターだけでなく、サービスを利用するアーティストやクリエイター、中小のレーベルの収益化やビジネスにも影響が及ぶ可能性があるからです。
音楽ストリーミング各社においては、Boomyのようなサービスを通じて生成系AIを使って作成した楽曲が大量に配信されてくる中、不正行為や、ボットを使った再生数の水増しを、どう防ぎ、本来アーティストが得るべきロイヤリティ収入を公平に還元するための技術とルールの整備がより一層求められるようになり、音楽業界からのプレッシャーも高まるはずです。