Spotifyは、アーティストや権利者、音楽業界への収益分配や、ストリーミング経済に関するデータを解説する年間レポート「Loud & Clear」を2023年度版にアップデートしました

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Loud & Clearは、アーティストやクリエイター、音楽業界が、Spotifyの分配のプロセスを、より透明性高く開示する目的で2021年に始まりました。

この記事では、Spotifyから還元された収益や、”音楽ストリーミングで稼ぐ”アーティストの代表的な収入構造や、再生のトレンド、音楽出版への支払いの増加など、レポートを解説したいと思います。また、Spotifyが公開している「アーティストへの支払い」に関するデータや情報ですが、実際には、権利管理者に支払われた額、ということを頭に置いてください。各アーティストやクリエイターが得る額は、契約するレーベルやディストリビューターとの条件や、アーティストの活動内容など、様々な要因で異なります。

既に公表されている数字では、Spotifyは2023年のみで音楽業界へ支払った分配額は90億ドル以上。これは、創業以来支払ってきた総額480億ドルの50%以上に相当する額です。

また、90億ドルの分配額の50%に値する45億ドルは、インディペンデント市場へ支払われました。インディーレーベルやDIYアーティストが年間で得た額としては過去最高で、2017年にインディペンデントへ支払われた額の4倍に増加しています。

2023年、Spotifyから最低1万ドルドル以上の収益を得たアーティストは6万6,000組。2017年の2万3,400組から3倍弱。2022年の5万7,000組からは一年で9,000組もさらに増加しました。さらに、2017年で最低1万ドルを得ていたアーティストの半数以上が、2023年では5万ドル以上を年間で得ています。

2023年は、最低1万ドル以上を稼ぐアーティスト6万6000組の中で、原盤収入源で4万ドル以上を稼ぐと見られるアーティストの半数以上が、英語以外が母国語の国出身のアーティストでした。英語以外の言語では、スペイン語、ドイツ語、ポルトガル語、フランス語、韓国語圏のアーティストがリードしており、ヒンディー語、インドネシア語、パンジャブ語、タミール語、ギリシャ語が大きく増加しました。これは、Spotifyにおいてラテン音楽やレゲトン、アフロビート、K-POPの世界的な人気や、インドや東南アジア出身アーティストの急成長を示唆しています。

還元される額は、年々増加しており、アーティストの取り分も、拡大しています。年間10万ドル以上を得たアーティストは、2017年は4,300組、2022年は10,100組、2023年は11,600組。100万ドル以上を得たアーティストは2017年は460組、2022年は1,060組、2023年は1,250組と、増加しています。

スーパースター級の収益では、年間1000万ドル以上を得たアーティストの数は、2017年は10組、2022年は40組、2023年は60組と、6倍増えています。

100万ドルを稼ぐアーティストの大半は、2010年以降に活動を開始したアーティストで、月間リスナー数は400万人〜500万人、月間再生数は2,000万〜2,500万ほど、とSpotifyは説明します。

”稼ぐアーティスト”、つまりSpotifyで人気のアーティストは、必ずしも有名アーティストでは有りません。最低100万ドル以上を稼ぐアーティスト1,250組の80% (約1,000組)は、SpotifyデイリーソングチャートTop50入りすることの無いアーティストでした。ストリーミングで収益を増加させるには、ヒット曲だけに頼る必要はない、ことを物語っています。

収入を音楽ストリーミングから得てキャリアを形成している「新進アーティストおよびプロとして活動するアーティスト」は22万5000組でした。ストリーミングを収入源にするアーティストや、これからプロになっていくアーティストに及ぼす経済的な影響力を強調しています。2017年に1万ドルを得ていたアーティスト2万3,400組の約50%は、2023年には5万ドル以上を得ており、全ての原盤収入の合計では20万ドルを超える、としています。

Spotifyの全アーティストを収入別に並べてみた時、5万位のアーティストでも最低1万6,500ドル、他のストリーミングサービスや原盤収入を考慮すると、おそらく年間の収入は65,000ドルになるだろう、とSpotifyは述べます。

なお、2023年にはSpotifyで最低1曲を配信した人は1,000万人以上で、そのうちの800万人は配信楽曲数は10曲未満でした。また、そのうちの500万人は、フルカタログ楽曲の再生数が100回以下でした。

再生数と人気曲の相関関係も、2023年は大きな変化が見られました。Spotifyで2023年に100万回以上再生されたのは32万9,000曲あり、2022年の28万1,000曲から増加しました。

2023年、Spotifyで再生される上位25万曲に必要な再生数は、最低140万再生。上位10万曲では最低400万再生、上位1万曲では最低3,500万再生が求められます。なお、Spotify上の再生数および月間リスナー数が、どれほど大きいか、小さいかを概算する計算機も、2023年のデータに更新されました。

https://loudandclear.byspotify.com/process/#calculator

音楽出版業界への収益分配についても、興味深いデータがあります。

Spotifyが過去2年間 (2022、2023)で、出版権利者に支払った額は40億ドル。これは出版社だけでなく、演奏権収入徴収団体 (PRO)、著作権徴収団体への支払いも含まれます。音楽出版社、作曲家、著作権集団管理団体 (CMO)は、CD売上が主流だった2001年の25億ドルの2倍以上の収入となる55億ドル (2022年)の収入が、ストリーミングから見込まれます (Global Value of Music Copyright調べ)。

2022年のレポートでは、過去2年間 (2021、2022)での支払額は30億ドル以上。2021年には10億ドル以上を支払ったことを明らかにしました。音楽出版業界では、最近の分配料率交渉で新たなレートが設定されたように、大きな変動が見られる年もあれば、次の年には変わることもあるため、音楽出版業界への分配額をフラットに比べることの難しさもあります。

音楽ストリーミングの経済や、収益化の仕組みを知ることは、あらゆるアーティスト、クリエイター、音楽業界で働く人にとって必要不可欠な知識です。Loud & Clearのようなレポートを使い、ストリーミング時代に適した契約内容や、アーティストの収入源に疑問を抱き、情報を集め、議論することは、結果的に、あらゆる規模のアーティストや、インディーレーベルにとって、大手レコード会社やディストリビューター、マネジメント会社と契約する際により優位な条件で結べたり、作品をリリースし収益化するためのより良質な戦略を提案することに繋がっていくはずでしょう。