ソニーグループは先日、ビジネス戦略会議を開催し、各グループ会社の今後の展望を紹介しました。ソニー・ミュージックエンタテインメントが掲げる成長戦略について、ロブ・ストリンガーCEOがプレゼンテーションを行いました。ストリンガーは、音楽ストリーミングの無料プランの改善、そして生成AIの分野における権利保護を強調しました。
2023年を振り返ると、ソニーミュージックは、同年のSpotifyグローバルアルバムチャートで、10位のうち4作品を占めました。各国の年間シングルチャートでは、米国では5作品、英国では6作品が年間トップ10を果たすなど、チャートサクセスも実現しています。
グローバル市場に対する成長戦略では、新興市場でのM&Aによるシェア拡大について述べ、3大メジャーの中で、過去3年間のM&Aに関しては、SMEが最も積極的だと主張しました。
同社は、新興市場の中でも、とりわけラテン音楽のジャンルでは、市場1位の地位を獲得しています。The Orchardを通じてバッド・バニーが所属するRimasへ多額の投資を行う他、ブラジルのレーベル大手のSom Livreとの事業連携も進めています。また、最近ではアフリカにも進出しています。Davido、WidKid、Tems、Tylaなどのローカル出身アーティストの海外進出を支援しています。
説明会の質疑応答の中で、ストリンガーは、音楽ストリーミングサービス各社は、無料の広告モデルに対して課金するよう、求めました「サブスクリプション音楽製品の価値は、依然として素晴らしく、過去1年のサブスクリプション価格値上げを通じて、パートナー企業は価値を認識してくれたことに感謝しています。しかし、無料と有料の間の価格差が広がっている問題も浮き彫りになりました。成熟した音楽市場では、パートナー企業が(無料の)広告付きプランを利用する消費者に対して、適度な追加料金を支払うよう求めることで、このギャップを埋めることに期待しています。そうすることで、この分野が、サブスクリプション利用者獲得のためのマーケティングファネルの枠を超え、多くの利用者に対して非常に大きな価値を提供することができるはずです」
「無料」の広告付きプランをサブスクリプションの集客に使うよりも、広告付きプランに課金させることが、最近のデジタルメディア業界のトレンドです。Netflixは2022年10月に広告付きスタンダード・プラン (月額6.99ドル)を導入しており、日本でも月額料金790円から加入できます。Amazonも2024年1月から、アメリカなどで、プライムビデオに広告付きプランを月額2.99ドルで導入しました。
ストリンガーは、同様のアイデアが音楽ストリーミングサービスでも成功すると確信している、と述べます「最終的に、私たちは無料プランからの収益化を改善させていきます。私たちは、人は全ての音楽にアクセスするためには、何かしらの料金を支払うと考えています」
ソニー・ミュージックエンタテインメントのデジタル戦略を統括するグローバル・デジタル・ビジネス担当社長のデニス・クーカーも、今年3月に無料プランの改善を求める発言をしています。
クーカーは、IFPIの「グローバル・ミュージック・レポート2023年度版」の発表会で、次のように語りました。「ストリーミング時代が始まって以来、無料サービスの収益モデルは進化していません。成熟した市場ではこの領域の再検討が必要です」
「私は以前からこの課題について話をしてきました。無料広告付きサービスや無料サービスの目的が、人々に音楽を紹介し、有料のサブスクリプションへ誘導することだとすれば、人々が音楽に対してお金をはらうように説得できなければ、それは音楽業界にとって問題なのです。特定のサービスが、消費者の関心や、可処分時間を奪い取り始めるなら、それも私たちは問題と捉えるべきでしょう」
【解説】世界の音楽市場、2023年は10.2%成長、音楽サブスクとフィジカルが好調。日本は7.6%成長
生成AIとの共存について、ストリンガーは、ソニーミュージックが700社以上のAI企業やAI開発者に送った書簡について言及しました。その中で、ストリンガーは、ソニーミュージックの原盤および出版カタログ楽曲が、生成AIの学習、開発、商業化のために使用することを禁止する、と述べています。対象となるコンテンツには、楽曲、歌詞、音声録音物、映像、アートワーク、画像、データなどが含まれ、テキストまたはデータマイニング、スクレイピング、複製、抽出、使用を禁止しています。
「持続可能な商業権利モデルが確率され、尊重される必要があります。私たちは、その実現に向けて積極的な役割を担っていきます。実現すれば、AIは私たちの業界において、創造性、拡張性、効率性のための多次元ツールとなるでしょう」
「私たちは、全ての過程でアーティストの権利を常に保護しながら、AIの分野でアーティストが創造的に進みたい領域へ並走します。そして、この新しい時代における未来のパートナーと共通点を見出すことを目指します。現在の方向性を楽観視していますが、私たちのアートを保護することがいかに複雑であるか、甘くは考えていません。無謀かつ無許可のアートの悪用によるAIモデルの違法な学習は容認しません」と述べました。