YouTubeは、人気アーティストの音楽をクローンできるAIツールの開発に向けて、レコード会社と楽曲のライセンス供与について交渉中であることが、フィナンシャル・タイムズによって報じられました。YouTubeは、新しい音楽AIツールのリリースを年内中に目指しており、AI開発において合法的に楽曲を学習させる必要があるため、レーベルとの交渉が進められています。
YouTubeとの協議には、ユニバーサル ミュージック、ソニーミュージック、ワーナー・ミュージックの3大メジャーレコード会社が参加しています。メジャーレーベルに対しては、既に、一括先払いで、コンテンツ使用料を支払う提案が行われました。内情に詳しい人の情報によれば、交渉中の契約条件は、包括的なライセンス契約ではなく、選抜された特定のアーティストに適用されるものとされています。これらの契約は、MetaやSnapなどSNS企業の支払う形式に似ていますが、SpotifyやApple、Amazonなど音楽ストリーミングサービスが支払っているロイヤリティ料分配型の形式とは異なってきます。YouTubeは、より多くのアーティストが新しい音楽生成AIツール開発に参加できるよう、レコード会社と契約を結びたい意向ですが、アーティストの参加は、レーベルに委ねられているとのことです。
最近では、ChatGPTを開発するOpenAIなどのAI企業は、メディアを運営する企業とライセンス契約を結び、メデイアのコンテンツやデータを活用して、大規模な言語モデルを学習させる開発手法が増加しています。
YouTubeは、これまでにも少数のアーティストやクリエイターと協力しながら、音楽生成AIツールの開発を実験的に進めてきました。2023年11月には、Google DeepMindが開発する独自の音楽生成モデル「Lyria」を活用して、テキストを入力するだけでYouTubeショート用の楽曲を生成できる音楽生成AIツール「Dream Track」を発表しました。一部のクリエイターにテスト提供されているDream Trackですが、すでにCharli XCX、Sia、チャーリー・プース、ジョン・レジェンド、デミ・ロヴァート、トロイ・シヴァン、T-Painなど、10組の有名アーティストが音声のクローニングなどで参加して、開発されました。YouTubeのスポークスパーソンは、フィナンシャル・タイムズに対して、「私たちはDream Trackを拡大する予定はありませんが、他の実験ではレーベルと協議しています」と述べました。
一方、多くのアーティストは、AI音楽生成に、強く反対しています。作品本来の価値が損なわれる可能性が懸念されるだけでなく、アーティストや作詞作曲家、権利者が、AI開発やAI学習などから、正当な報酬を得られない複雑な権利処理問題も依然として解決していません。YouTubeとのライセンス契約において、より多くのアーティストの参加や、学習対象の楽曲数が増えれば、許諾の問題の複雑化は必須であり、アーティスト、ソングライター、プロデューサー、音楽出版を代表する業界団体からの反発が予想されます。
著作権で保護されたカタログ作品を無許可でAIモデルの学習に用いる企業の存在も問題視され始めています。先日、メジャーレコード会社とRIAAから訴えられた、AIスタートアップのUdioとSunoにも、同様の疑いがかけられています。
そのため、YouTubeに限らず、音楽AI開発を進める企業やスタートアップと、音楽業界の間で、アーティストや作品の権利者に対して、適切な許諾を取得するための、透明性の高いプロセスの確立が早急に求められています。