
世界の音楽業界を代表する業界団体の国際レコード産業連盟 (IFPI)は、2024年における世界の音楽市場動向をまとめた業界レポート「グローバル・ミュージック・レポート2025」を発表しました。
その中でIFPIは、2024年の世界の音楽原盤収益は、前年比4.8%増で296億米ドルに達したことを明らかにしました。音楽業界はプラス成長が10年連続となるものの、2023年の10.2%という二桁の収益成長と比較すると、2024年は大幅に減速しており、業界に危機感が湧き上がっています。
2024年度の音楽市場及び各フォーマットの収益は以下の通り
- 世界の音楽原盤市場: 4.8%増加し、296億ドル
- ストリーミング収益: 7.3%増加し、204億ドル
- サブスクリプション収益: 9.5%増
- 広告型ストリーミング収益: 1.2%増
- フィジカル音楽収益: 3.1%減
- CD収益: 6.1%減
- アナログレコード:4.6%増
- 市場シェア: ストリーミングは69%、サブスクリプションは51.2%を占める
- サブスクリプション利用者: 7億5200万人
音楽サブスクリプションからの収益は引き続き、世界各国の音楽業界では最大の収益源となり、前年比9.5%増と好調を継続しました。有料音楽サブスクリプション利用者数は2023年末の6億6700万人から7億5200万人に増加しました。
音楽ストリーミング全体からの収益も好調で、7.3%増の204億ドルに増加しました。YouTubeなど広告付きストリーミングからの収益は1.2%増と。2024年のストリーミング市場では、年間で初めて200億ドルを突破しました。
市場収益別シェアでは、ストリーミングが市場全体の69%を占め、その中でサブスクリプションは51.2%と、初めて50%を超えました。
一方、広告付きストリーミングのシェアは18.7%から17.7%へ減少しました。他のフォーマットでは、フィジカル売上が16.4%、ダウンロードは2.8%、演奏権収益は9.7%、シンクロナイゼーション収益は2.2%でした。
ただし、音楽市場の成長率と同様、ストリーミング市場も2023年の11.5%増から7.3%、サブスクリプション市場も10.3%増から9.5%と、成長率は前年より減速しました。
フィジカル音楽収益は3.1%減の48億ドルでした。CDおよび音楽ビデオの収益の大幅な減少が要因で、CD売上は6.1%減でした。アナログレコード売上は18年連続のプラス成長を記録し、4.6%の増加を達成しました。
演奏権収益は4年連続の増加トレンドが続き、5.9%増加して29億ドル。テレビ番組や映画、広告、ゲームなどからの収益が発生するシンクロナイゼーション収益も4年連続のプラス成長で6.4%増加し6億5,000万ドルとなりました。ダウンロードからの収益は12年連続の減少で7.7%減。
国別の市場規模ランキング上位10カ国は、2023年と大きく変動はなく、1位のアメリカ、2位の日本、3位のイギリス、4位のドイツ、5位の中国、6位のフランス、7位の韓国、8位のカナダ、9位のブラジルの順に続きました。
しかし、2024年はメキシコが初めて10位に入り、オーストラリアをトップ10外に押し出しました。
(カッコ内は2024年度の収益成長率)
1.米国 (2.2%)
2.日本 (-0.2%)
3.イギリス (4.9%)
4.ドイツ (4.1%)
5.中国 (9.6%)
6.フランス (7.5%)
7.韓国 (-5.7%)
8.カナダ (1.5%)
9.ブラジル (21.7%)
10.メキシコ (15.6%)
アジアの音楽市場の成長率は前年比1.3%増と、2023年の15.4%増から収益成長が大幅に下がりました。日本の成長率は0.2%減で、2023年の5.4%増から大きく減少したことが要因の一つでした。またフィジカル収益の依存が高いことも要因の一つで、2024年は収益全体の45.1%を占めました。中国は前年比9.6%の成長を達成しました。
地域別の市場成長率では、北米は2.1%、オーストラレーシアは6.4%、ヨーロッパは8.3%といずれも伸びを示しました。一方、二桁成長を遂げたのは、中央・北アフリカ地域 (MENA)は22.8%、サブサハラ・アフリカは22.6%、ラテンアメリカは22.5%と、いずれも大幅な成長を記録しました。
これらの地域は、引き続き、グローバル音楽市場の中で、ポテンシャルの高い成長市場として、今後更なる成長に期待が高まります。
関連記事: 【解説】世界の音楽市場、2023年は10.2%成長、音楽サブスクとフィジカルが好調。日本は7.6%成長

IFPIは、グローバルレポート発表に併せて、ロンドンでメディア向け発表会を開催しました。そこには、メジャーレコード会社の代表が参加し、加えて、IFPIのCEOであるヴィクトリア・オークリー (Victoria Oakley)が登壇しました。
今年の登壇者は以下の7名でした。
- デニス・クーカー:ソニー・ミュージックエンタテインメント グローバル・デジタルビジネス担当社長
- ステイシー・タン: RCAレコードUK共同社長
- カサンドラ・ストラウス: ユニバーサル ミュージック グループ 戦略的テクノロジー・グローバルデジタルテクノロジー シニアディレクター
- テガ・オゲネジョボ: Mavin Global 社長兼最高執行責任者
- イザベル・ガーヴィー: ワーナーミュージック 最高執行責任者
- クリステン・バーク: ワーナーミュージック・カナダ 社長
- ヴィクトリア・オークリー: IFPI CEO
発表会の冒頭で、オークリーは「成長率鈍化」という音楽業界が避けて通れない話題に触れ、「昨年やそれ以前と比べて市場の成長率は鈍化しましたが、他の多くの業界から見ると羨ましがられるほどの成長水準にあります」と述べ、成長鈍化よりも、全地域が例外なく成長し続けた現状を強調しました。
パネルセッションの中で、ソニー・ミュージックエンタテインメントのグローバル・デジタルビジネス担当社長のデニス・クーカー (Dennis Kooker)も、成長鈍化に言及しました。
クーカーは鈍化の背景には、無料のストリーミング利用者を有料サブスクリプション利用者に転換してきた、直近の業界の取り組みが成功していることを指摘しました。ただし、クーカーは欧米など成熟市場で、成長の鈍化がより顕著に見られるとも述べました。
さらに、クーカーは、今後の音楽ストリーミング市場で成長するには、サブスクリプション利用者数を増やすより、利用者一人あたりの平均収益 (ARPU)の向上に重点を置くべき、と音楽業界が考慮すべき考え方の転換を提言しました。
「ARPU向上のため、私たち業界が検討すべきは、サブスクリプション価格の引き上げ、消費者の細かなセグメンテーションを実現する新たなサービスの提供、無料サービスの収益化の改善などの施策です」
音楽業界は、これらの取り組みをいかに実現まで持っていけるのでしょうか?
クーカーは「成熟市場では、無料サービスの中に有料化の新たな仕組みを検討し始めるチャンスです」と述べました。無料ユーザーから課金する案は、これまで過去にもソニー・ミュージックが提案してきたアイデアで、同社の方針は引き続き変わらないようです「利用者がどのように無料サービスを利用しているかを分析し、最終的には有料サブスクリプションへコンバージョンを促したり、無料層での収益化を強化できる製品を検討する必要があります。これには有料化もしくは広告収益化などいずれかの方法が検討できます」
ストリーミングサービスの価格帯に関する議論も行われました。「中間価格帯」と呼ばれる価格帯について問われると、クーカーはこの価格帯で成功するには非常に困難との見解を示しました「私たちは中間価格帯サービスを何度も試しました。率直に言って、機能しませんでした。理由としては、無料サービスの内容がかなり充実しており、有料サービスでは全ての機能が揃っているからです。そのため、中間価格を成立させる上で、無料版と有料版のどちらとも異なる魅力をわかりやすく提示することは困難なのです」
さらに、IFPIのイベントには、アフロビーツレーベル「Mavin Global」の社長兼COOであり、現在はUMGが筆頭株主となっているテガ・オゲネジョボ氏も登壇。アフリカ地域内および国際的な成長の勢いについて語った。
パネルセッションには、ナイジェリアのアフロビーツのインディペンデント・レーベル大手「Mavin Global」の社長兼最高執行責任者 (COO)のテガ・オゲネジョボ (Tega Oghenejobo)が登壇。海外で成長が続く、アフリカ音楽市場の勢いについて語りました。
「私たちは、RemaやAyra Starrのように、非常に若い段階で見出したアーティストたちに注目しています。私たちは、アーティストの発掘に対して、強い自信がありました。私たちは彼らに投資し、ローカル市場に留まらない国際的にも継続的な成功を収められる地位にアーティストを導いてきました。こうした環境は私たちにとって非常に刺激的です。私たちは、アフリカ市場の規模の巨大さを理解しています。DSP各社がこの市場へ投資し続けることに期待しています。また、Mavinをはじめとするレーベルだけでなく、チケット販売会社、音楽出版社など、他の業界関係者もこの市場に注力し、若いアーティストを発掘し、業界を発展させていくことを期待しています」
オゲネジョボは、アフリカ市場に注目するDSP各社に対して、次のような提案をします。
「アフリカ市場でサービスを展開したい場合、消費者の教育の重要性を理解しなければなりません。私たちは音楽の価値を高めたいと考えています。そのため、パートナーのストリーミング各社には価格帯やプランの設定で、より積極的な姿勢を見せてもらいたいです。現状では、私たちが期待するほどの積極性は見られていません」
「ローカルサービスとしてのDSPは私たちの期待を十分に満たしてはいません。消費者視点で長期的かつ安定的に音楽サービスを見ると、無料プランには全く魅力を感じません。海外展開の面では、ある程度の積極的な取り組みも見られますが、私たちはさらに多くの取り組みを期待しています。クリエイティブな領域や、その周辺を支える人々には活気がありますが、今後スケールアップし、より持続可能な取り組みを実現するには、更なる攻めの姿勢が必要です」
ワーナーミュージックUKの最高執行責任者 (COO)であるイザベル・ガーヴィー (Isabel Garvey)と、RCAレコードUKの共同社長であるステイシー・タン (Stacey Tang)も登壇し、アーティストのキャリア形成と、ファンベース拡大におけるデータの役割について、見解を述べました。
ガーヴィーは「ワーナー・ミュージックでは、音楽を発見したリスナーを、積極的に音楽に関与するリーン・インなリスナー、そして正真正銘の音楽ファンへコンバージョンすることを目指しています。各種SNSの指標、エンゲージメント、拡散の速度や動向などあらゆるデータを注視しています。加えて、ファーストパーティーデータにも注視しています」と述べました。
「世界は完全にボーダーレスになりました。私たちはもはや自国市場だけを見ていません。海外視点を持ち、アーティストを様々な地域で展開していくか、流通させるためのトレードルートを理解しようとしています」
「また、私たちは、ライブ活動にも注目しています。アーティストがどのように文化的、社会的な会話に影響を与えているかといった点にも目を向けています。今は非常に素晴らしい時代で、あらゆる情報が指先に集まってきます。ただし、重要なのは、それらのデータをどう解釈するかという点です。そして、データが異なる示唆を示す度、素早く対応し、方向転換できる柔軟性が求められます。私たちは成功の定義も常に進化させています」
タンは、レコード会社の役割と、ファンダムの存在について、こう述べました。
「私はマーケティング出身ですので、常にアーティストのストーリーをいかに独自性を高めて伝えるか、がテーマです。そして今の時代は、ストーリーを伝えるためのプラットフォームが以前よりも増えましたし、リーチできるファンの数も増加しています。私たちの仕事では、もはやローカル市場のイギリス国内のファンだけを対象にしているわけではありません。今の時代、ファンダムは国境を超えます。つまり、私たちはアーティストを代表して、グローバルなファン同士と繋がることができるのです」