本稿は、業界の分析専門会社GameRefineryの日本市場アナリストであるMona Hietalaによるゲスト寄稿記事です

モバイル分野での「音楽ゲーム」「リズムゲーム」の存在が、いかにして日本の音楽業界の認知獲得や事業機会を広げるか、その可能性を考察しています。

音楽ゲームやリズムゲームは近年、復活の兆しを見せています。

Rock Band」や「Guitar Hero」など、専用デバイスを使ったリズムゲームの全盛期は、すでに過去のものとなりました。

最近のトレンドの1つでは、これまでゲームと接点が少なかったジャンルに音楽の要素を取り入れたゲームが増えてきました。

モバイルRPGの「Dislyte」(ディスライト)が取り入れたターン制バトルで採用されたリズムゲーム・モードや、System of a Down、Trivium、Lamb of Godといったヘビーメタル・バンドのボーカル要素を取り入れたリズムベースのFPSゲーム「Metal:Hellsinger」が、このトレンドの事例です。

カテゴリーを超えたマッシュアップも増えてきました。

モバイル・リズムゲームの「Beatstar」は、名前は聞いたことがある人も多いかもしれません。

このゲーム内で、Black Eyed Peasが新曲をデビューさせたり、Eminemが最新アルバムのプロモーションのためにコラボレーションするなど、リズムゲームの分野で大成功を収めてきました。

こうしたリズムゲームや音楽ゲームは近年、特に日本で人気が高まっています。

GameRefineryのデータによると、ゲームのジャンルでは、「音楽/バンド」は、日本国内で4番目に大きなモバイル・カテゴリーです。そして、2022年第2四半期の日本のiOS市場では6.1%のシェアを占めています。

本記事執筆時点において、日本のiOS売上ランキングトップ200には4つのリズムゲームがランクインしています。

欧米諸国の業界にとって、このトレンドは驚きかもしれません。

モバイルゲームは、欧米のメディアでは普段取り上げられません。まして、日本と中国のモバイルゲームとなれば、さらに露出は少なくなります。

残念なことに、欧米の多くの人は、日本の音楽ゲームとリズムゲームの市場が拡大していること、そして世界の音楽産業にとって、文字通り未開拓な市場の可能性があることを理解していません。

日本の音楽ゲーム、リズムゲーム、米国、中国人気との差

日本のモバイルゲーム市場における音楽/リズムゲームのトップ2は「あんさんぶるスターズ!!Music」と「プロジェクトセカイ・カラフルステージ!feat. 初音ミク」です。

日本国内での成功によって、両タイトルはアメリカでの発売にもつながっています。

特にプロジェクトセカイは、日本のリズムゲームの重要な要素を、欧米で紹介する最適なケーススタディとなっています。

米国、中国、日本のリズムゲームにはいくつかの重要な違いがあります。

米国では、ビートマッチングや、カジュアルなリズムゲームが人気を集めています。

中国では、プレイヤーのアバターの変化やカスタマイズが好まれます。

日本では、キャラクター主導の物語や、詳細なストーリー性、RPG要素を絡ませたリズムゲームプレイが特徴です。

日本のリズムゲームにおけるキャラクターは多くの場合、アニメスタイルの外観を持ち、アップグレード可能なレベル、独自のスキル、異なるジョブなど、ゲームをクリアするために、複雑なシステムを理解しなければなりません。

多くの場合、欧米に紹介する上で、日本のリズムゲームは「音楽RPG」と分類すると理解しやすいと言えるでしょう。

アジアで成功しているリズムゲームのもう1つの重要な特徴は、ゲーム、漫画、アニメなどの人気ブランドやIP、実在のアイドルグループをベースにしている点です。

プロジェクトセカイ・カラフルステージ!が成功した理由はここにあるかもしれません。初音ミクは日本で最も人気があり成功しているボーカロイドでバーチャルアイドルという、ブランドが確立されています。

プロジェクトセカイは、初音ミクのブランド力を背景に、iOSゲームの売上トップ10に何度も登場しています。

このゲームは、プレーヤーがバンドの結成から成功までの道のりを辿り、ボーカロイド歌手によるオリジナル曲と有名曲をボーカルカバーした楽曲でプレイします。アプリ内課金で新しいバンドメンバーを解除したり、アップグレードでき、キャラクターごとの異なるスキルを使ってゲームを進めていきます

また、追加ボーナスのロックを解除できるサブスクリプション形式バトルパスを提供する、数少ないリズムゲームの1つでもあります。

バーチャルコンサートといえば「Fortnite」や「Roblox」などPCゲームを思い浮かべる人が多いはずです。

しかし、プロジェクトセカイはライブイベントの成功を受けて、2022年6月11日に、ゲーム初のコンサート「Connect Live」を開催し、バーチャル・アイドルバンド「Vivid BAD SQUAD」のライブを披露しました。

チケットを購入したファンは、グロースティックやエモートを使って、リアルタイムでバンドやゲームのソーシャルハブにいるファン同士で交流しました。

ゲームの収益はイベントの前後で比較すると約3倍になりました。

モバイルゲーム内でのバーチャルコンサートは、今後も多くが開催されるでしょう。

K-POPグループのBLACKPINKは、3000万人以上のデイリーアクティブプレーヤー(DAU)が参加する人気FPSゲーム「PUBG:Mobile」に出演しました。

ジャスティン・ビーバーは「Garena Free Fire」でバーチャルコンサートを開催しました。「Garena Free Fire」は、2021年第2四半期になんとDAUが1億5000万人を突破しています。

これらのゲームの多くは、ラテンアメリカ、インド、東南アジアで大規模なユーザー層を抱えているため、世界中のユーザーにリーチしたいジャスティン・ビーバーのチームにとって、非常に魅力的な展開になったはずです。

5Gの進歩により、高品質のモバイルゲームとライブイベントの統合が、今まで以上に利用しやすい環境が広がりました。

人気の高いモバイルゲームの多くは、家庭用ゲーム機やPCゲームと比べてもプレイヤー数を大幅に上回っています。音楽モバイルゲームが「Fortnite」や「Roblox」などから人々の注目を奪い始めるかどうか、今後に注目が集まります。