今年5月18日時点で、Spotifyの時価総額は300億ドル強(約3兆1,956億円)だった。それ以降、音楽に関する大きな発表はないが、SpotifyはJoe RoganやKim Kardashian West、そして、先週にはDCのスーパー・ヒーローとスーパー・ヴィランに基づいた脚本付きポッドキャスト・シリーズの契約をWarner Brosと結ぶなど、注目を集める独占的なポッドキャスト契約を取り付けている。そして、本記事の執筆時点で、Spotifyの時価総額は419億ドル(約4兆4,630億円)まで上昇している。
もちろん、Spotifyが事業として約1ヶ月間で119億ドル(約1兆2,675億円)も価値を上げた理由が、完全にポッドキャストだけということではない。ゴールドマンサックスによる音楽業界の強気な予想、ワーナー・ミュージック・グループによる大成功の新規上場、欧州委員会によるアップルへの公式な独占禁止法調査の開始なども、全て関連していると言えるだろう。
しかし、それでも、ウォールストリート界隈では、Spotifyがポッドキャスト分野に向かって大きく派手な動きを見せていることが気に入られているようだ。現状では、Spotifyが企業を買収して、大物スターを独占契約するためにお金を使えば使うほど、Spotifyの価値は、その支出を遥かに超えて増していっている。
Spotifyによるこういった動きは音楽業界に緊張を引き起こしている。レーベルはロイヤリティを守ることについてざわめいているし、アーティスト権利キャンペーンを展開する人々は、ポッドキャストのスターとミュージシャンの再生数あたりの平均レートを対比させている。しかし、Spotifyの企業戦略としては、「オーディオ・ファースト」のロジックは非常に明確だと言えるだろう。
Spotifyの管理チームは既に十分に理解しているだろうが、市場が企業の価値に付加できるものは、同様に取り除かれる可能性もあることを忘れてはならない。Pandoraが音楽ストリーミング・サービスとして注目を集めていたのにも関わらず、アップルがオンライン・ラジオの競合サービスをローンチするかもしれないという噂が報道で広まったというだけで株価が1日に20%低下したのも、そう昔のことではない。もし、アップルがApple Podcastsに注力し始めたら、Spotifyの株価(および価値)にどのような影響があるだろうか。
奇しくも、9 to 5 Macは、アップルが次のソフトウェア iOS 14の一環として、Apple Musicのパーソナライズされたおすすめ機能「For You」に相当するポッドキャストを含む、ポッドキャスト・アプリの改良を計画していると報道している。他の新機能もあると言われている。
Spotifyキラーと呼べるほどではないが、最近の報道によると、アップルもオリジナルのポッドキャスト・コンテンツを強化しているとのことで、より大きな動きが予定されているようにも思える。ポッドキャストにより、Spotifyは非常に価値の高い会社となったが、一番の競合がその分野を放っておくとは考えにくいだろう。
ちなみに、Spotify Japanは最近、インフルエンサーのkemioによるオリジナル・ポッドキャスト番組「kemioの耳そうじクラブ」を限定配信することを発表しており、日本でもポッドキャストへの動きがこれから加速していくかもしれない。