
今週、ブルームバーグとフィナンシャル・タイムズが「内情に詳しい関係者の話」として、Spotifyが準備している「音楽スーパーファン」向けの新たなプランに関する情報を明らかにしました。Spotifyが準備を進める新たなサブスクリプションは「Music Pro」との名称で、現在のプレミアムプランよりも最大5.99ドル高い価格で提供が検討されています。米国の個人向けプレミアムプランが月額11.99ドル (約1820円)であることから、Music Proは月額18ドル (約2740円)の価格まで上がると見込まれます。Spotifyは、Music Proを今年後半にローンチする考えで、具体的な時期は未確定です。
主な機能では、高音質オーディオ再生、AIを活用した楽曲のミックスやリミックスなどのDJ機能、コンサートチケットへの先行購入アクセスの3つが挙げられています。
Spotifyは先日、ユニバーサル ミュージック グループとワーナーミュージック・グループと更新したライセンス契約で、新プランでの音楽提供や機能に関する追加の条件も内包している可能性も示唆されます。一方、SpotifyはソニーミュージックとMerlinとのライセンス契約更新を発表しておらず、Music Proを含めて追加契約が必要になる可能性もあります。
高音質オーディオの再生は、長年、Spotifyが追加すると噂されてきた機能の一つでした。しかし、音楽業界内では、高音質がサブスクリプション利用者の獲得を増加させる決定打とは考えられていません。特に、Apple Musicが空間オーディオを追加料金無しでプレミアムプランに含めて以降、ストリーミングサービス間では高音質再生は大きな差別化要因となりにくいのが現状です。
一方、Music Proが追加検討するコンサートチケットへの先行購入は、音楽スーパーファンにとって魅力的かもしれません。コンサートチケットの購入機能は、主要なストリーミングサービスでは対応していません。逆にSpotifyは、チケットマスターやAXS、Bandsintown、Eventimなどチケット販売パートナーと長年提携してきた実績があります。
とは言え、既存のチケット先行販売は、すでに競争の激しい領域です。Spotifyがファンが望むチケット先行販売方法を実現出来なければ、Music Proに加入する魅力も下がるかもしれません。既存のファンクラブやアーティストのメーリングリスト登録の特典とどのように差別化するのか、も議論されるでしょう。これらの論点は、今後重要になっていくはずです。
もう一つの機能であるDJ機能は、異なるアーティストの楽曲をミックスできる機能としか報じられていません。これが、マッシュアップを生成する機能なのか、あるいはクロスフェード機能を強化したDJ機能か、まだ明確にはされていません。しかし、多くの予想は、SpotifyのAI機能を活用して、ユーザーが選択した2曲以上を自動的に合成する機能とされます。さらに、2曲をミックスしやすいよう、ユーザーが楽曲のテンポを調節する機能も提供されると考えられます。
さらに、報じられた3つの機能に「コミュニティ機能」が含まれていない点も注目に値します。スーパーファンと一般的な音楽リスナーの違いの一つに、ファンダムやコミュニティへの参加意欲が挙げられます。
Luminateが2023年に実施した調査では、スーパーファンは特定のアーティストのファン同士が集まるファンダムやコミュニティに参加することに関心が高く (一般的な音楽リスナーよりも43%高い)、アーティストと個人的なレベルで繋がりたいスーパーファンは一般的なリスナーよりも59%も高いことが明らかになりました。
なぜSpotifyはここまで音楽スーパーファンに特化したプランに注力するのでしょうか?より多くのユーザーやサブスクリプション利用者の獲得と、一体何が違うのでしょうか?
その大きな理由は、一般的な音楽リスナーよりもスーパーファンの音楽消費額が大きいことが挙げられます。
Luminateの2024年の年間レポートによれば、米国の音楽リスナーのうち20%がスーパーファンと定義されています。これは2023年の18%から増加しています。Luminateは、米国人口の3億3650万人の75% (約2億5,300万人)が音楽リスナーであり、その15%がスーパーファンと推測できます。また、Luminateによれば、スーパーファンは音楽に費やす金額が一般的なリスナーより多いことが特徴です。ライブ音楽への支出では、スーパーファンは月平均113ドルを費やし、これは一般リスナーよりも66%多い額です。フィジカル商品の購入は、スーパーファンは月平均39ドルを費やし、一般リスナーの19ドルを105%も多く支払っています。また、スーパーファンの73%がグッズを購入しているのに対し、一般リスナーは26%に留まっています。
こうしたデータからも分かる通り、スーパーファンやファンダム経済圏に注力した戦略は、音楽業界の収益増加を促進する上で重要な役割を果たします。音楽業界では、今後、再生数を増やしたりチャートを狙うことよりも、ストリーミングのスーパーファンのニーズを満たすことが、今後重視されていく可能性が高まります。同時に、SpotifyはMusic Proの機能をプラットフォーム内で完結させるのか、それとも外部パートナーと連携して運営するか、という疑問があります。スーパーファンを獲得し、高額プランに留まり続けてもらうには、マネジメント、チケット販売など、外部との連携が不可欠となるでしょう。