近年、音楽業界では、動向が注目されてきた音楽ストリーミングサービスの中で、TikTokが少数の国で運営してきた音楽サブスクリプション「TikTok Music」は、既存のグローバルDSP中心の音楽市場構造に、一石を投じる可能性のある存在でした。しかし、TikTokは、これまでTikTok Musicを展開してきた5カ国のオーストラリア、ブラジル、インドネシア、メキシコ、シンガポールで、同サービスを11月28日に終了することを発表しました。日本を含めて、多くの音楽市場に上陸する前に、TikTokは、前身サービスの「Resso」と「TikTok Music」で目指した音楽サブスクリプション市場への本格参入の野望は、(一旦は)終わることとなりました。
TikTokは、サービス終了の理由で、既存のDSPとのパートナーシップに注力したいと説明しています。Music Allyに対し、TikTokのグローバル音楽ビジネス開発責任者であるオーレ・オーバーマン(Ole Obermann)は、「私たちの『音楽アプリに追加』(Add to Music App)機能は、これまでパートナーである音楽ストリーミングサービスで数億曲規模の楽曲がプレイリストで保存されるのを実現しました」と、声明で語っています。TikTok社内で、SpotifyやApple Music、Amazon Musicなどと競合するより、他社ストリーミングサービスとの連携で音楽消費の増加に貢献する戦略が優先されたと考えられます。「音楽アプリに追加」機能は、現在、世界180カ国で利用可能になっています。
オーバーマンは「TikTok Musicを11月末に終了し、アーティストや作詞作曲家、音楽業界全体の利益のために、TikTokは音楽ストリーミングサービスでの音楽の視聴と価値を向上する役割の推進に集中します」と述べました。
TikTok Musicのローンチは、2023年7月、ブラジルとインドネシアで始まりました。同年10月には、オーストラリア、メキシコ、シンガポールでもサービスを開始しました。同サービスは、開始当初から、ユニバーサル ミュージック、ソニーミュージック、ワーナーミュージックのメジャーレコード会社のカタログ楽曲が利用可能でした。しかし、後述の3カ国では、ユニバーサル ミュージックのカタログ楽曲が、サービス開始時に無かったなど、順風満帆ではありませんでした。また、TikTokが、TikTok Musicの成長やユーザー獲得に関する数値発表や報告を、音楽業界に対して殆ど共有しなかったことも示唆的でした。
その一方、多くの人々が、音楽をSNSアプリで見つけ、再生しているトレンドが世界的に拡大しています。この流れを牽引しているのは、TikTokである事実は変わりません。音楽が利用されるコンテンツを消費、保存、共有し、大多数に向けて情報発信できる役割としてのSNSは、パッシブ再生 (能動的な再生)中心でローカル地域寄りな音楽ストリーミングサービスよりも、受動的でグローバル規模な音楽体験が実現可能です。こうした特性を踏まえて、アーティストやレコード会社の中には、SNSを優先した楽曲配信や収益化の動きも、メジャーやインディペンデント問わず増え始めています。TikTok Musicは終了しますが、音楽ストリーミングで収益を伸ばしたい音楽業界やアーティストにとって、SNSプラットフォームとの向き合い方や契約は、今後さらに変わっていくはずです。