• 投稿カテゴリー:音楽業界

universal-music-group

 

ユニバーサル ミュージック グループ 会長兼CEO ルシアン・グレンジは、毎年1月恒例の念頭メッセージをUMG従業員宛に送りました。

その中で、今年グレンジは現在のストリーミング経済モデルと収益分配の仕組みに改善を求める意見を述べました。

グレンジは、音楽ストリーミング市場の成長はアーティストやリスナーにメリットをもたらしてきた一方、音楽市場で膨大なノイズが増える要因も生まれ、アーティストやリスナーにとって混乱と消化不良の副産物を生み出していると説明します。

「今日、プラットフォームでは一日あたり10万曲が毎日追加されています。膨大な楽曲がプラットフォームに氾濫する中、消費者はアルゴリズムによって、時には『音楽』と呼べない低レベルな機能的コンテンツに誘導されることが多くなりました」

「この意味を説明します。消費者を有料課金へ促すため、プラットフォームは当然ながら、大規模かつ熱狂的なファンベースを持つアーティストの音楽を匠に利用しています。しかし、ファンがサブスクリプションを使い始めた途端、アルゴリズムによって、芸術的文脈の無い、プラットフォームにとってライセンス料の安い、またはプラットフォームから直接委託されて制作された音楽に誘導されることが多いのです」

「例えば、31秒のサウンドファイルが何千何万という膨大な量でアップロードされていることが分かっています。その唯一の目的は、システムを悪用し、ロイヤリティ分配を流用することなのです。その結果? 消費者には満足度の少ない音楽体験が提供され、プラットフォームのビジネスモデルを動かす楽曲を作るアーティストへの報酬は減少していきます。ファンがお互い共有できる文化的瞬間も少なくなります。プラットフォームが実現するはずだった、アーティストと音楽の創造性と発展が損なわれていきます」

音楽ストリーミングで生まれる格差

グレンジは、この現状に落胆しつつ、驚きではないと述べます。

この状況は、成長が続く音楽業界において、新しい企業の新規参入に加えて、アーティストと芸術性へのコミットメントを共有しない一部の悪徳業者も、音楽業界に参加していることが、要因にあると考えます。

そして、現在の音楽業界における格差問題では、「メジャー対インディーズ」の対立構造の議論から離れるべきと呼びかけます。

現代の音楽市場における真の格差は、アーティストや才能の育成に投資する側と、質より量を重視してシステムを利用する側との間で対立構造が起こり、アーティストとレーベルが本来受け取るべき収益を奪うことを目的とした、音楽とは無関係なあらゆるコンテンツでプラットフォームを氾濫させることで経済的機会を生み出すプレーヤーが、音楽業界に参入している、と現代の問題を指摘しました。

「私たちにとって、そして、発展途上のアーティストも、実績あるアーティストも含めて、多くのアーティストやソングライターにとって明らかなのは、音楽ストリーミングの経済モデルを進化させる必要があるということです。技術が進歩し、プラットフォームが進化すれば、変化に対応するため、ビジネスモデルの革新は必然です。ファンが価値を感じ、支援したいアーティストへ費やす情熱と、プラットフォームのサブスクリプションの方法との間に生じている断絶は、ますます広がっています。現在のモデルでは、あまりにも多くのアーティストの貢献、ファンのエンゲージメントが過小評価されているのです」

新たな収益分配モデルが必要

グレンジは、新しいストリーミングの進化に対するアイデアを説明します。そして、近年の音楽業界で話題になっている「ユーザー・セントリック支払い型」の収益分配システムとは異なるモデルの確立を示唆します。

「この不均等な環境を解決するため、私たちは最新のモデルが必要です。特定のジャンルのアーティストと、別のジャンルのアーティストを競争させたり、メジャーレーベルのアーティストとインディーズやDIYのアーティストを競争させるモデルでは無く、DIY、インディーズ、メジャーレーベルすべてのアーティストを支援するモデルが必要なのです。それは、革新的な『アーティスト・セントリック』なモデルで、全てのサブスクリプション利用者を尊重し、愛する音楽に対価が支払われることです。アーティスト、ファン、レーベルに利益をもたらすと同時に、プラットフォームの価値提案を強化し、サブスクリプション利用者の増加を加速させ、ファンダムのより効果的な収益化を実現させます」

グレンジは「アーティスト・セントリック」なモデルの詳細には触れませんでした。

しかし、2023年において、UMGがストリーミング・プラットフォームと行う交渉の席で、議題の大部分を占めることは間違いないでしょう。

「今年、私たちは、より健全かつ競争力ある音楽エコシステムを促進するために必要な革新の創出に取り組みます。世界のいかなる国から生まれた音楽に、ファンが簡単かつ確実にアクセスができ、新しい音楽を発見し、楽しむことができる環境です。素晴らしい音楽が、ノイズの海にかき消されない環境。オーディオやショート動画などであっても、音楽コンテンツのクリエイター全員に公平な報酬が支払われる環境です」

グレンジのメッセージはこちらで全文読むことができます(英語)