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2024年末の音楽業界で大きなニュースです。ユニバーサル ミュージック グループ (UMG)は、傘下のディストリビューションとレーベル・アーティスト・サービスを提供するVirgin Music Group (VMG)が、インディペンデント音楽向けのディストリビューションやサービス提供の大手、Downtown Music Holdingsを7億7500万ドル (約1200億円)で買収する契約を結んだと発表しました。買収が成立すれば、音楽業界で最大規模のアーティスト・レーベル・サービスとテクノロジー企業の統合となり、インディペンデント音楽市場へのサービス提供をさらに強化することが狙いです。
UMGは買収を2025年後半までに完了することを目指しています。競合の買収という承認手続きの複雑さも伴うため、長期化する可能性もあります。Virgin Music Groupによれば、買収成立までの期間、両社は独立して運営を続けていきます。完了まで、両社は統合しないとのことです。
Downtown Musicがメジャーレコード会社に買収されることによって、インディペンデント音楽企業やレーベル、アーティスト、業界団体からは強い反発が予想されます。2024年春に、ワーナーミュージックがBelieveの買収を試みた際も、インディペンデント音楽業界は猛烈に抗議しました。
Downtown Musicは、世界中のインディペンデント・レーベルやアーティストが利用する、音楽業界で最大級のインディペンデント企業の一つです。同社では、世界各地のアーティストやレーベルに対して、ディストリビューションやレーベルサービス、音楽出版、収益管理、権利管理のテクノロジーとサービスを提供しています。
特筆すべき点は、Downtownは近年、権利ビジネスを行わない戦略に転換し、インディペンデント向けのインフラやツールの提供に専念した、「純粋なサービス企業」として、音楽業界で位置付けられていることです。2021年に、約4億ドルで、Downtownが所有していた、残りの音楽カタログの権利をConcordに売却しました。その中には、アデルやビヨンセ、ブルーノ・マーズ、デヴィッド・ボウイ、ジェイ・Z、レディー・ガガ、マーヴィン・ゲイ、サム・スミス、スティーヴィー・ワンダーなどのヒット曲や作品が含まれていました。
同社の傘下には、日本のSPACE SHOWER FUGAを共同設立した音楽ディストリビューターの「FUGA」や、DIYアーティスト向けの「CD Baby」と「Soundrop」、音楽マーケティングサービス「Found.ee」、音楽出版向け権利管理プラットフォーム「Songtrust」など多数の企業があり、幅広いサービスとテクノロジーを世界規模で展開してきました。
Downtown Musicは積極的なM&A戦略でも知られてきました。2019年に、CD BabyやSoundrop、DashGo、ADRevの親会社であるAVLを、2020年にはFUGAを、2024年にはCurve Royaltiesをそれぞれ買収して、サービスを拡充してきました。
一方で、同社の売却は、過去数年、検討されてきました。2024年7月、同社の主要株主で、ニュージーランドの大富豪である故ダグラス・マイヤーズの家族が出口戦略を求めたため、Downtown売却の可能性が報じられてきました。
Virgin Music Group共同CEOであるJT Myersは、次のように述べています「Justin Kalifowitz、Andrew Bergman、Pieter Van Rijnの3人は、Downtown Musicを、世界で最も多様性と評価の高い企業の一つに成長させました。今回の統合により、私たちはDowntownの伝統を拡張し、インディペンデント音楽コミュニティに向けて、各種サービスと展開地域の両面で、積極的かつ革新的なグローバルインフラ基盤を提供できるようになります。Downtownチームとともに、インディペンデントな起業家、アーティスト、クリエイターの皆様に、より幅広いサービスをお届けできることを楽しみにしています」
Downtown MusicのCEOで創業者であるJustin Kalifowitzは次のように述べています「これは、インディペンデント音楽が有する重要性と活力、そして当社が日々クライアントにもたらす価値を高く評価するものです。Downtownは、あらゆる地域、あらゆるキャリアステージにいるアーティストや起業家が、成功に必要なツールと機会を同等に享受すべきという信念に基づいて設立されました。Downtownがクライアントに提供している広範かつ高品質なサービスは、Nat、JT、そしてVirgin Musicのチームとの協業を通じて、さらに強化されると確信しています」
ユニバーサル ミュージックは、近年、世界中で成長が続くインディペンデント音楽市場へ進出を強め、世界各地で市場シェアを拡大させています。2022年にVirgin Music Label & Artist Services (元Caroline International)を再編して、Virgin Music Groupを立ち上げ、インディペンデント音楽向けのアーティスト・レーベル・サービスを強化しました。
Virgin Music Groupでは、2019年にはディストリビューターの「Ingrooves」、2022年には「mtheory」、2024年には[PIAS]グループ、「Outdustry」などを完全買収またはサービスを一部買収してきました。また、世界各地のマネジメント会社やインディペンデント・レーベルとも資本提携を行っています。その中には、ブラジルのSaban Music Latin、UAEのChabaka Music、ナイジェリアのAfrobeatsのレーベルMavin Global (UMGが株式取得)などがあります。
過去数年、メジャーレコード会社は、インディペンデント企業の買収または株式取得で、インディペンデント音楽業界での存在を高めてきました。ソニーミュージックは、傘下のThe Orchardと共に、AWAL、Human Re Sources、Fluve (ブラジルのSom Livre買収で獲得)、Above Board、Altafonteなどを買収し、ディストリビューションやレーベルサービスといったインディペンデント向けのサービスを強化しています。
なお、Virgin Music Group共同CEOであるJT MyersとNat Pastorは、2024年1月にロンドンでMusic Allyが主催する音楽ビジネスカンファレンス「Music Ally Connect」で初めてインタビューに応じる予定です。