「FAST」(Free Ad-Supported TV)は近年、映像業界やエンタテインメントビジネスでにわかに注目を集める領域になりました。
FASTは動画ストリーミングプラットフォーム上で配信される「無料広告付き映像ストリーミング」を指します。
映像ビジネスと映像業界では昨今、プレミアムコンテンツを主体にするNetflixやAmazonプライム・ビデオ、Disney+といったサブスクリプション型のサービス(SVOD、Subscription Video On Demand)が、主流なプラットフォームとなりました。
また、サブスクリプションと広告モデルのAVOD(Advertising Video On Demand)を組み合わせたハイブリッド型の映像サービスも増えています。
その中で、FASTチャンネルは、所有するIPやカタログコンテンツをより多くのユーザーや一般消費者にリーチさせる手法や、広告収入の手段として有効です。そのため、近年は、この領域に注力する企業が増えています。
FAST、SVOD、AVODなど映像業界のトレンドはこちらの記事をご覧ください。
FASTサービスへ新たに進出するのはワーナーミュージックです。FAST型の無料音楽動画配信サービスをRokuと組んで始めます。
Rokuが展開するFASTサービス「Rokuチャンネル」の中で、ワーナーミュージックのコンテンツに特化したチャンネル「WMX Pop」「WMX Rock」「WMX Hip-Hop」を独占的に開設しました。また、Rokuチャンネルでは、ワーナーミュージックが管理するミュージックビデオやコンサートの映像を配信します。
WMGのオウンドメディアであるUproxxやHipHopDX、Cover Nation、Lasso Nation、The Pit、Songkickが制作したオリジナルコンテンツも配信します。
「WMX Pop」「WMX Rock」「WMX Hip-Hop」の配信コンテンツは毎日更新される予定です。
ワーナーミュージックでオウンドメディアおよびコンテンツ戦略を手掛ける「WMX」によれば、同社の動画コンテンツは映像配信とSNSプラットフォームで毎月560億回以上再生されています。
加えて、ワーナーミュージックは、カタログアーティストをテーマにした新しいオリジナルコンテンツもRokuチャンネルで配信していきます。音楽ドキュメンタリーコンテンツ「Iconic Records: Life After Death」では、ノトーリアス・B.I.G.の生涯にフォーカスしたコンテンツを第一弾として配信します。
WMGは、Rokuチャンネルに対して、3カ月のウィンドウ(独占使用)契約でコンテンツ提供に合意しました。期間が終了すると、他社のプラットフォームに配信が始まります。
ワーナーミュージックのFASTサービス進出は、音楽企業がどの映像プラットフォームで配信するかといった、ディストリビューションの議論に留まらないことが示唆されます。
先日、映像業界で無敵と思われてきた最大手のNetflixが会員数減少を発表しました。DisneyやApple、Amazon、HBOといったプラットフォームが、プレミアム映像コンテンツを視聴する有料会員獲得で競合し始めたことも、コンテンツ戦略をより強化する要因に繋がっています。
こうした流れの中で、人気の高い音楽IPや、現代の消費者と親和性が高いカタログ楽曲を保有するレコード会社や権利者、音楽企業の存在は、利用者獲得を狙う映像プラットフォーム運営企業にとって、非常に魅力的になってきていると言えます。