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 ワーナー・ミュージック・グループは5月26日、新規株式公開(IPO)に向けて手続きを始めたことを公表した。新規株式公開では7千万株が提供され、1株あたり、23~26ドル程度になると想定されている。時価総額は117億~133億ドル(約1兆2,693億〜1兆4,429億円)に上るとみられている。親会社のAccess Industriesは2011年にワーナー・ミュージック・グループを33億ドル(約3,580億円)で買収しており、かなりの成長を遂げたことになる。ちなみに、競合のユニバーサル・ミュージック・グループは、テンセントが率いるコンソーシアムへの最近の株式売却において、ほぼ330億ドル(約3兆5,807億円)と評価されている。

 「株式提供は、Access Industriesおよび特定の関連する販売株主によって売却される二次株式で完全に構成されています」とワーナー・ミュージック・グループは説明している。「引受人には、販売株主からクラスAの普通株式をさらに1050万株まで購入する30日間のオプションが与えられます。当社は、この募集からの収益は一切受け取りません。」

 ワーナー・ミュージック・グループは、証券コード(ティッカーシンボル)WMGでナスダック株式市場へ上場する。前会計年度に38億4千万ドル(約4,167億円)の売上を生み出し、出版部門はさらに6億4,300万ドル(約697億7千万円)の売上を生み出した、同グループへの投資を検討する投資家向けに、目論見書とともに、証券登録届出書(開示書類)であるフォームS1が公開されている。

 目論見書は現代の音楽業界における主要レーベルの役割を擁護する役目も果たしている。「今日、我々のようなグローバルな音楽エンタテインメント企業は、これまで以上に重要かつ関連性のある存在となっています」と目論見書では綴られている。

 「音楽を広範に配信するための従来の障壁は取り除かれました。全てのミュージシャンが指先で触れられるところに音楽を作成し、配信するためのツールは存在し、今日のテクノロジーは、音楽が瞬時に世界中を旅することを可能にしています。これにより、いつでもどこでも、音楽を利用できるようになりました。こういった背景により、デジタル・プラットフォームにおいてリリースされる楽曲の量が増えており、レコーディング・アーティストやソングライターにとって、注目を集めるのが難しくなっている現状があります。我々は、並外れた才能を見つけ、契約を交わし、育成し、マーケティングをすることで、こういったノイズを打ち破ります。」

 目論見書には他にも、興味深い項目が綴られている。

 – ストリーミング・サブスクリプションの価格設定に関する見解
 Spotifyのノルウェーにおける実験および、Amazon Music HDを引用しつつ、「有料加入者の増加に加え、より広範な市場がさらに発展するにつれ、価格設定の向上によりストリーミング収益も増加すると考えています」と述べられている。「ストリーミングが消費者に提供する価値提案は、プレミアム・プロダクトの取り組みを支えることになると信じています。」

– TikTokやその他の短編形式動画プラットフォームに関する見解
 「このようなアプリケーションは、広範に普及する可能性を秘めており、音楽エンタテインメント業界の利益のために、さらなる大規模なプラットフォームが作成される機会を示唆していると言えます。これらのプラットフォームにより、漸増する音楽消費が可能になり、若者を含む様々なオーディエンスを惹きつけることができるでしょう。」

– Deezerとテンセント・ミュージック両方の少数株主持分の保有
 ワーナー・ミュージック・グループの親会社であるAccess Industriesも、Deezerの支配株式持分を所有している。IPO後も、Access Industriesはワーナー・ミュージック・グループの発行済普通株式の議決権の合計99%以上を引き続きコントロールする。「Access Industriesは企業への投資を行う事業を運営しており、我々の業界および他業界で活動しており、直接、または間接的に我々と競合する可能性のあるビジネスの株式を積極的に取得しようとしています。」

– さらなる出版買収計画の示唆
 「他の音楽出版者を買収し、コスト削減を引き出すこと(獲得したカタログはほとんど増分コスト無しで管理できるため)、さらに、より積極的な収益化の取り組みを通じて収益を増やすことで、多大な価値を生み出す機会が我々にはあります。また、当社の戦略を前進させるのに役立つと思われる事業に従事する企業を我々のカタログに追加、買収、または投資する機会についても引き続き判断していきます。」届出書の後半で、ワーナー・ミュージック・グループは、2020年3月31日までの6ヶ月間で、出版権の取得に1,600万ドル(約17億4千万円)を費やしたことを明らかにしている。

– COVID-19に伴うロックダウン中の統計の一部
 2020年4月に記録されたワーナー・ミュージック・グループの音楽ストリーミング売上は、前年同期比12%増の1億8,300万ドル(約198億6千万円)だった。同月の出版売上は16%増の2,200万ドル(約23億8,700万円)だった。全体として、ワーナー・ミュージック・グループの4月におけるデジタル総売上は前年同期比10%増となったが、デジタルと非デジタルを合わせた推定総売上は、「アーティスト・サービスからの売上、録音原盤分野における拡張された権利、広告サポート型、およびフィジカルからの売上、そして、音楽出版分野におけるシンクロ売上の減少がデジタルの成長を上回ってしまった」ため、10%減少した。ワーナー・ミュージック・グループは、パンデミックが収束するにつれ、これらの収益源は「大幅に回復」すると予想している。